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第13話 回顧

「結局よく考えるとなんで生徒会に入れたんだろうな……」  安田との外勤の帰り。槇はふと思い立って呟いた。隣に座っていた安田が視線を上げた。 「どうしたの? 槇? ――いや実篤(さねあつ)」 「あ、いえ。すみません。独り言なんです」  槇は慌てて首を横に振った。  北部支所管内で行われた、自治振興協議会から次の外勤先への移動の車中だった。  運転席にいる秘書課秘書係長の水戸部(みとべ)は苦笑した。 「槇さん、生徒会って言いませんでした?」 「やだな。聞こえていましたか?」 「聞こえていますよ。ねえ、金成(かなり)課長」  助手席に座っている秘書課長の金成も「うんうん」と頷く。 「なんだかすっかり懐かしい言葉ですよ。『生徒会』だなんて。槇さん、いつの頃にタイムスリップしていたんですか?」 「はは。すみません。なんだか突然思い出しちゃって」  槇は言葉を濁すが、安田が付け加えた。 「実篤は梅沢中の生徒会長をしていたんだよな」 「市長、その話は」 「ええ~! すごいじゃないですか。あの梅沢中でしょう? 生徒会長だなんて、なかなかなれるものではないですよ」  水戸部は心底、驚いたという顔をしていた。 「どんなに優秀だったんですか。槇さん」 「いや。優秀なんかじゃないです。というか、梅沢中始まって以来の不良生徒会長ですよ」 「あはは。それは、逆に破天荒過ぎてすごいですな」  金成も同調した。  ――そう。あんな生徒会長初めてだっただろう。  大体、不良グループの一人で、素行も悪い、頭も悪い、不器用で変な奴である自分を生徒会に推してくれた当時の会長は相当変わっている人だった。  彼は現在、海外にいると聞いている。多分、日本の枠には収まらないくらいの人だったのだろう。  ただあの人は槇と野原の恩人でもある。そう二人がまた、こうして一緒にいられるようにしてくれたのは、彼だったのかも知れないから……。 「市長、市立図書館に到着です」 「わかりました」  安田はにこっと笑うと、金成の言葉に頷いた。  今日は老人クラブ連合会より、市立図書館への寄贈品の受領式がある。子ども向けも大事だが、高齢者向けも無視はできない。ここは外せない案件の一つだ。  市役所本庁舎と共に、市立図書館の古さも半端ない。建て替え計画が出ているものの、まずは本庁舎。もう少しもってくれるといい、というくらいの老朽化。大震災級の地震が来たら、危ないな……などと思いながら、四人は図書館に入っていく。  中からは図書館長や、担当者がぞろぞろと顔を出し、市長を出迎える。すでに到着している老人クラブ連合会長たちもにこやかだ。安田が愛想よく笑っている後ろで、槇も作り笑いを心掛けた。  市民へ一瞬たりとも不快な思いをさせてはいけないからだ。  中に入り実質動くのは、水戸部と金成。槇は受領式からは少し離れて、図書館の中を眺めた。 「本か」  元々読む質ではない。一緒にいる野原の部屋にある、足の踏み場もないくらいの本たちを思い出してわらってしまった。 「図書館にも来る暇ないからな。あいつ」  そんなことを考えていると、ふと目に着いた一冊の本。 「これは……」  日本神話。野原から聞いた物語が一気に脳裏を掠めていった。  あの時の話は断片的にしか覚えていない。その本を手に取ってぱらぱらとめくっていると、人の好さそうな、女性職員が声をかけてきた。 「貸出できますよ」 「あ、ああ。いや。これは……」 「初めてのご利用ですか」 「いや。……そうだな」 「すぐにカードをお作りいたしますよ」 「……じゃあ、お願いしようか」  槇はついそう応えて、その本を女性に手渡した。

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