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第20話 陰謀

「叔父さんは年を取り過ぎた。ここのところ澤井の言いなりだ。このままではせっかくのおれの立場が台無しだろう?」  肩を竦めて見せると、野原は少し呆れたような表情をした。 「澤井副市長はキレ過ぎる。底知れない人」 「お前もそう思う?」  野原は頷いた。 「接点はないから本当のことはわからない。だけどそんな澤井に手を出して勝算ある? 水野谷(みずのや)さんの反対派閥だって聞いている。手強い」  「水野谷」という男の名に槇は心がざわつく。   水野谷は、野原の元上司であり彼が槇以外に唯一心許す男だ。 「お前は水野谷さん、好きだよな」  刺々しい言い方をわざとしてやっているのに気が付かないのか、野原は少し気恥ずかしそうに視線を伏せた。 「お世話になったから」 「お前がそんな風に思える人、珍しいからな。妬ける」 「そんなんじゃない」 「知ってるけど。言いたくもなるわけで……」  槇はそっと野原の腕に指を這わせるが、すぐにその手を掴まれてから外された。 「真面目な話しているところで邪魔」 「ちぇ」 「でも澤井副市長下ろしと保住と、なんの関係がある?」  槇は咳払いをしてから、ソファに寄りかかった。 「保住は澤井の恋人、もしくは元恋人ではないかと思っている」 「え?」  さすがに野原は目を瞬かせた。 「澤井は保住がお気に入りだ。保住が新任で配属された時の上司。そして振興係でも接点がある」 「だからといって飛躍しすぎ」 「澤井は保住の自宅に何度も泊まり込んでいたようだ。おかしいと思わないか? 澤井は、保住の父親の流れを組む派閥と対立しているはずなのだ。それなのにあの猫可愛がりようといったらない。保住も澤井には無遠慮で親しい関係性が隠しきれていない」 「確かに澤井副市長から保住宛に電話があるのは確か」 「だろう? おかしいだろう。そんなこと現実的にありえないだろう。副市長が直接、一係長宛てに電話を寄越すなんて。それに」  槇は続ける。 「澤井は市制100周年記念事業の実施にあたって、特設部署を創設する案を出してきた。その室長に保住を座らせると言ってきている」 「それは……」 「破天荒なことだ」 「無茶しすぎ。保住は係長。独立した室長は次長や課長クラス」 「保住はおれたちより年下だぞ」 「早すぎる出世は周りにもいい影響を与えない」 「そう言うことだ。あまりに身勝手。そして独裁的」  一気に話を進めて、槇は一息吐いた。野原はしばらく黙り込んでいたが槇を見た。 「安田市長(おじさん)は?」 「賛成こそしないが、反対もできない。だから。保住を利用する」 「実篤(さねあつ)」  野原は難色を示した。 「保住に協力させて、澤井を失脚させる。今度の企画は潰す」 「そんなことをしたら、安田市長の進退問題になる」 「大丈夫だ。上手くやる」  自信ありげに胸を叩くと、野原は冷たい視線を寄越した。 「実篤の作戦はいつも甘い。上手く行った試しある? ことを起こすなら、もっと綿密に計算しなくちゃ」 「な、考えてる」 「嘘」 「雪は協力してくれないのか」  槇はじっと野原を見つめた。

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