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第51話 揺れるこころ
『君がこの左遷人事を甘んじて受けてくれたら、僕は槇くんを助けてあげたいと思っているんですよ。悪い話じゃないでしょう? どうせ、君は現星音堂 長の水野谷君の愛弟子でしょう? 師匠の後釜を立派に勤め上げるのも責務だと思うけど?』
——別に星音堂に行くのは不本意でもない。あの場所は素敵なところだった。もしかしたら自分に合っているのかもしれない。
昇進に興味はない。自分の好きな仕事ができればいいのだ。だが、槇はきっと——心配するのだろうな。そう思った。
「ねえ。聞いている? ——もう、仕方ないわね。……まあ、いいんじゃないの? 雪 は生まれてからずーっと篤兄 と一緒にいたんだもん。たまには別な人と付き合ったほうがいいよ。雪にはもっと頼もしい人のほうがいいもんね」
「頼もしい人——?」
ふと篠崎の言葉を思い出す。自分にはしっかりした人がお似合いだと言っていた。凛も同じことを言うのだと思った。
「おれには、そういう人がいいの?」
「な、今更なによ。大体ね。篤兄はおばかさん極まりないでしょう? 一体、どんだけ迷惑こうむってきたの? まあ、仲いいし。別に私が口を挟むことじゃないけどさ。雪はもうずいぶんとお付き合いしてきたよ。そろそろいいんじゃないの? お互いに」
――お互いに?
自分もそうだが槇にとっても自分は不相応ということなのか。
野原はじっと黙り込んで考え込んでしまった。凛は「ごめん、言いすぎたよ」と謝ったが、そんなことは関係のないことだった。
――ずっと一緒にいられるものだと思っていた。だが……それは難しいことなのかもしれない。
ふと田口と保住のことを思い出した。あんな風に一緒にいることを選択するあの二人がなんだか羨ましく感じられた。
――羨ましいだって……? 羨ましいってなに?
心に巻き起こっている戸惑いを処理しきれずに野原はじっとそこに座っていた。
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