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第70話 愚かしくてもいいですか

「申し訳ありませんでしたね。本当にありがとうございます」 「後悔いたしますぞ。澤井に付くということは、あなた方の未来は闇に閉ざされたも同然です」  ――脅しか。いや、はったりでもないのだろう。だが、そうはいかない。 「ああ、あなたの偏った人事につきましては、市長の耳にも入っておりますよ。人事への直接的介入をするつもりはないと安田は申しておりますが、行政改革の一環として、庁議で議題にさせてもらうつもりです」 「――槇さん」  久留飛はぎりぎりと奥歯をかみしめているのか、渋い顔をした。 「やはり行政運営はクリーンでなくてはいけませんと市長も申しております。また、久留飛課長には、いつもご尽力いただいて、本当に感謝しているとも申しておりました」 「今回のところは引き下がりますが――澤井は、あなたが思っているほど思いやりがある人間ではありません。来るべきときが来たら、あなたは使い捨ての駒のように切られるだけだ。あなたの大事な野原くんもね」  ――やはり、星音堂(せいおんどう)人事は久留飛の意図的策略。 「野原は関係ありません。あれはあれで熱心に仕事をこなしている。久留飛さん。おれは確かに澤井さんに協力することを選びましたが、野原は澤井とは関係ない。それはあなたがご存じなのでは?」 「確かに。野原くんは澤井副市長との接点はないですね。しかし、間接的にあなたに加担しているということが結果的に澤井副市長派になるわけですよ」  槇は久留飛を見据えてから、つい笑ってしまった。  さすがに久留飛はむっとした顔をした。 「なにがおかしいのです」 「失敬。あなたは野原をよく理解されていないようだ」  ――そうだ。雪は、おれに味方しているというだけでもない。だって、おれがバカだって知っているからだ。 「おれなんて尻にしかれているだけですよ。確かに、おれは澤井さんを選びましたが、野原にたたかれたら、あっという間に寝返るかもしれませんよ。  ――澤井さんは、そんなことも覚悟でおれを拾ったんだと思いますよ。ああ、こんな体たらくな男でもいいのであれば、久留飛さん、拾ってくれますかね?」  槇の言葉に、久留飛は嫌悪感を丸出しにした。

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