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第71話 権力が欲しい理由

「女ではなく男に惑わされて意見をころころ変えるだなんて、槇さんは本当に浅はかとしかいいようがないお人だ。僕の見込み違いでしたね。お誘いしただけ損でした。いいでしょう。我々は安田市長の再選を目指しているのですぞ。安田おろしを画策している澤井に付くなんて、常軌を逸している」 「さあ、どうでしょうか」  自分でもよくわかっていないが、澤井の話を聞く限り、結果は万事うまくいく気がするのだ。詳しい話は分からない。だが、心のどこかで『大丈夫だ』と思ってしまう自分がいた。 「あなた方はいずれ一緒にいられないときが必ずくるでしょう。我々に協力していればそれは回避できたかもしれない。その時になって後悔しても遅いのです。――ですが、もう後の祭りです。今更、あなたと手を組むつもりにはなれませんよ。せっかくのチャンスを逃しましたね。槇さん」  久留飛は頭を下げた。 「それでは、戦場でお会いしましょう」  ――一緒にいられなくなる時が来るだって?  ぺんぎんのような後ろ姿を見送って、槇は一抹の不安を覚えた。しかし後戻りはできないのだ。これは自分が選んだ結果なのだから。  ――そんなことには絶対ならないし、させない。 ***  市長室に戻ると、人の良さそうな安田が待っていた。 「申し訳ありませんでした。遅くなりました」 「ううん。……大丈夫?」 『大丈夫』の意味は色々なのだろうけど……。槇は笑顔で頷いた。 「ええ。ご心配おかけしました」 「それはよかった。じゃあ、行こうか」  秘書係長の水戸部(みとべ)も顔を出す。 「お車の準備が出来ております。市長、槇さん」 「ありがとう!」  愛想のいい安田の言葉に、槇も歩き出す。  ――お前のこと、おれが守るから。だから一緒にいろ。  ――なぜ権力が欲しいかって?  決まっている。  ――野原雪を守るためだ。 ー了ー

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