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番外編1ー2 昔からうるさい男
結局、一昨日と同じネクタイを引っ張り出した実篤。彼の好みは偏っている。無意識に選ぶものは、いつも同じだ。
今度は、一度使ったものはしばらく隠しておいたほうがいいのかも。目につくところにおいておくと、エンドレスに使いまわすだけ。
やっとの思いで違うネクタイを選んできた実篤。今日のワイシャツには到底似合わないと思うけど……。もうタイムリミット。これ以上言っても時間の無駄だと判断し、黙っていることにする。
まあ、服装が変でもいつものこと。
玄関先で、お互いに車のカギを握る。同じ職場に足を向けるものの、帰宅時間が違いすぎる。だから、別々に出る。
実篤は市長の私設秘書を担っている関係上、夜の付き合いも多い。政策秘書の役割もあるからだ。市長が公務中は、基本的に市長のそばにいるものの、政策秘書として、後援会などとの付き合いが多い。
一方の自分は課長職。大した仕事ではないにしろ、なにかと時間や手間が取られることも多い。また、時間外の会議も多い。そのおかげでしたくもない残業をさせられるのだ。
二人の帰宅時間はちぐはぐ。だから別々に出勤するのだが。
今日に限って、実篤は「一緒に行こう」としつこくせがんだ。
――まあ、いいか。どうせ今日は夕方後援会長と夕食会と言っていた。
会食がある場合、ほとんどは酒が入る。タクシーで帰宅することが多いので、そういう場合は、車は一台でも事足りた。
実篤の提案に、自分の車のカギをもとの場所に戻し、二人で玄関を出る。
「運転しようか」
「いい」
実篤は嬉しそうにそう言ったが、こんな慌てている人間の運転ほど危ないものはないと思った。
しかし、上機嫌の彼の申し出を無碍にしても仕方がないと思いつつ、助手席に座った。
「夜、一緒に帰ろうな」
「……」
「な、なんだよ。無視?」
「約束できるかわからない。実篤も忙しいはず。――議会の準備できているの?」
「そんなのは秘書課の役割だろう」
あきれる。得意の職務放棄。もっと責任を持ってほしいものだと思った。
それに……。
「それに、今晩は後援会長と会食でしょう」
「あっ! そうだったっ! やばい。もっといいワイシャツ着てくればよかった~。っていうか。このネクタイ合わないじゃん! っもう。なんで言ってくれないんだよ~」
また人のせい。自分で選んだものだから、自分で責任取って欲しい。
――あきれる。
大きくため息を吐いて、ハンドルを握る実篤の横顔を見た。
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