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番外編1ー3 優しくして欲しい

「本当に秘書できる? 実篤。仕事できているの?」 「で、できているだろう? だからやってんじゃん」 「『やっている』のと、『やれている』は違う」 「――ねえ、本当厳しいんだから。もっと優しくしろよ……」 「優しく? 優しくってどうする? 頭撫でればいい?」  実篤の言葉は難しい時が多い。なにを言いたいのかよくわからない。  だけど、彼は他の人間と違って、わからない言葉を丁寧に説明してくれる。 「あのねえ。言葉の優しさだよ」  ――言葉の優しさ……? 「例えば、『わ~、実篤ってさすが』とか、『実篤って出来る男』とかさ。褒めるってこと」  ――さすが? 出来る男? 「篠崎さんも『できる男』って言葉使っていたけど、仕事出来ない人なんているの? それって、給料泥棒」 「だ、か、らっ。そういうのじゃないんだって。あのねえ、『できる男』っていうのは男にとったら一番の誉め言葉な訳? おわかり? 仕事はみんなできるんだ。その横並びの中で、特に能力の高い人間に対して使う言葉な訳。だから、そう言われたら素直に喜ばないと。かわいげがないっていうことだ」 「誉め言葉……なんだ。じゃあ、篠崎さん、おれのこと褒めていた?」 「そうだって。あのねえ。篠崎はお前のこと好きだろう? いいか。あの女とは口をきくなよ。いいな」 「口をきくなって。仕事にならない」  実篤の言うことは意味がわからない。 「じゃ、じゃあ、わかった! 筆談だ。筆談でもしておけ」 「実篤……」 「いいか? あの女はお前を男として見てるんだぞ? 隙を見せたらつけ入れられるからな?  いい?」 「男として? 実篤は男として見ていない?」 「んなことないって。お前はれっきとした男だろう? そんな野暮なこと聞くなよ。お前の体のことは隅々まで、中まで知っているだろう?」 「そっか。それはそう」  ――納得。  そんなやり取りをしていると、車は駐車場に到着した。 「はい」    彼は車のキーを差し出した。 「おれ、会食でタクシーだから。帰りはこれ使えよ」 「わかった」  彼から受け取った鍵をカバンにしまっていると、腰を引き寄せられた。 「もう、寝坊したら起こしてよ。朝できないじゃん」 「え?」  腰に添えられた腕とは反対の腕が伸びてきて、突然、引き寄せられた。 「!?」  きょとんとしていると、実篤はぎゅうぎゅうと抱き締めてきた。

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