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第2話 船上

 元々船旅なんてしたくなかった。海は別に好きじゃないし、暑いのも苦手だ。肌が弱いから日に焼けると黒くならずに赤くなってヒリヒリ痛むのを我慢しないといけない。だけどこの間浮気されてカンカンになった僕に、顕さんがお詫びに旅行に連れて行くと言いだしたのだ。長い夏休みに何をする予定も無いだろうと詰め寄られて誘いに乗ったのが間違いだった。  旅行自体は顕さんとよく出かけていたけど船旅は初めてだった。普段の旅行なら車にせよ列車や飛行機にせよ、あまり他人と関わることはない。実際、マイアミでこの船に乗るまでの道中では、飛行機でキャビンアテンダントと会話したくらいで他の客と話すこともなかった(化粧室の前で恰幅のいい男性とすれ違う際に言葉を交わした程度だ)。    しかしクルーズ船での旅は思っていた以上に他人と関わる機会が多かった。乗船後は客室にこもるかデッキで海でも眺めるくらいしかすることが無いんだと思っていた。だから観光のため寄港する以外は本でも読んでいようと家から何冊も本を持ち込んでいた。だけど実際には毎晩のようにパーティやミュージカルなどのショー、カジノ、映画の上映などのイベントが開催されていて本なんて読む暇はなかった。顕さんに連れ回されているうちに自然と客やスタッフと顔見知りになり会話するようにもなった。    昼間は数カ所あるプールで好きなだけ泳ぐことができ、本格的なフィットネスルームからボルダリングまで楽しむことができた。アーケード街でぶらぶらとショッピングをしてもいいし、お腹が空けばサンドイッチやケーキが揃ったカフェも24時間無料で利用できた。ダイニングは洋風から中華風まであり毎晩日替わりのフルコースが提供される。その他にも別料金で各国料理のレストランが揃っていて、日本食レストランもあった。  毎日発行される船内新聞でその日のイベントをチェックして参加するのだが、これが結構忙しいのだった。  初日は船内のあらゆる施設が珍しくて、ただ見て回るだけでヘトヘトになった。しかし4日目ともなると船の生活にもなれ、顕さんの悪い癖が出てきたというわけだ。彼の気まぐれに合わせるように、昼まで晴れていた東の空がみるみる暗くなり激しい風と共にスコールがやってきた。  とにかく今夜はもうカジノもパーティもごめんだった。気圧の変化のせいか頭がズキズキするし誰かさんのせいで胸がむかむかして仕方ないので、痛み止めを飲んで先に休むことにする。

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