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第3話 朝日
昨夜僕がふて寝した後で顕さんがどこへ行ったのかは知らない。ただ、朝早くからきちんと起きて身支度をしているところを見ると夜更かしせずに部屋に帰ったのかもしれない。それどころか「おはよう」と機嫌良さそうに言ってカーテンを開けている。
「ずいぶん早いんだね」
「ああ。お前も充分寝ただろう?着替えてデッキを散歩しよう」
「…わかった」
僕は言われるまま動きやすい服装に着替えスニーカーを履いた。船の外周をぐるっと一周できるプロムナードデッキでは、潮風を感じながらウォーキングしたりランニングを楽しむことができる。
どうやら顕さんは昨日のことを反省して僕と仲直りするつもりらしい。人混みが好きではない僕としては、夜のパーティやカジノに連れて行かれるよりもこうやって朝から静かにウォーキングでもする方がずっと気が楽だった。
顕さんが僕を着飾らせて連れ回すのは、単に僕の見た目が気に入っているからに過ぎない。自分の玩具 を見せびらかしたくて仕方ない子どもみたいなものだ。だから、単なる散歩程度の外出に連れて行ってもらえることは僕にとってはすごく特別で嬉しいことだった。ただの飾り物としてじゃなくて、僕自身が必要とされてるって気がするから。
この船に乗ってからこんなに穏やかな気持で過ごせるのは初めてかも、などと思いながら顕さんに続いて部屋を出た。昨夜薬を飲んで早めに寝たのが良かったのか、頭はぼうっとするものの頭痛は治っていた。まだ起きる人も少なく静かな船内を歩きながら自然と口元が緩むのを感じていた。
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