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蛇足の顕視点 恋人がいかに可愛いかを語るだけの話(2)
大人になるまで勉強ばかりしていて恋愛に関して初心だった卓弥を籠絡するのは赤子の首を捻るより簡単だった。それにお勉強がよくできる卓弥は恋愛に関しても俺の言うことなら何でも素直に飲み込む実に良い『教え子』だった。
俺は美しいものが好きだ。建築にしろ家具調度や美術品にしろ、美しいものこそが人生を豊かにしてくれると思っている。美しい人間もまた、俺のつまらない日々に花を添えてくれる大事な存在だ。
だから俺は男女問わず恋人には美しさを求めてきた。はじめは卓弥もその一人として、俺の人生において一時だけコレクションとして加えたいと思ったのだ。
自慢じゃないが俺自身優れた見た目であると自覚している。オーストリア人は彫りは深いが比較的さっぱりした美形が多く、塩顔を好む日本人の受けも良い。そしてゲルマン人特有の長身、長い手足。その血を引いている俺は若い頃からとにかくモテた。
さてそんな俺がかつて付き合ってきたのもなかなかの美男美女だった。モデルをやっていたから美形は見慣れてる。それでも尚、卓弥の美しさは他を凌いで光るものがあり俺の独占欲をそそるのだ。
ちなみに彼自身はずっと女性が性的対象だと思っていたらしい(これまで好きな子は女の子だった)が、俺の見た所潜在的にはゲイだろう。そうでなければあのように男を無意識に誘う色香の説明がつかない。
そうだ。俺はあいつを手籠にしたと思っていたが後から考えれば搦め取られたのは自分の方だったというのがオチだ。
先日はあまりにも卓弥への愛が強くなりすぎて旅行中にも関わらずこっぴどく叱られてしまった。
だってあいつが他の男の手に抱かれてるのなんで想像してみろ?………だめだめだめ、絶対だめだ。
でも俺とは11歳も歳が離れていて、いつ卓弥が俺に愛想を尽かすかわからない。今ですら加齢臭がしてないか気が気でないくらいなのだ。
ああ、それならいっそやはり可愛い女の子と結婚させてしまった方がよくないか?
2人の子供は可愛いだろうから俺は祖父ってことにして孫に貢ぎまくる。
女とセックスしてる卓弥を想像するのはなんとか耐えられそうなんだ。なんていうか、可愛い百合カップルみたいっていうの?
あ!孫――ではない――を養子にもらうのはどうだ!?これならとにかく卓弥との絆が永遠に続くわけだし。俺は天才か??それだ!やはり女を探さねば!!
でも待てよ、卓弥が女に本気で惚れたら俺は耐えられるのか…?
いややっぱりだめだ。クルーズ船で朱美と卓弥がキスしたって聞いた時ですら死にたくなったんだった。キスだけで死ぬならセックスなんて本気で無理だ。
「はぁ~あ」
大きくため息をついたところ、可愛い恋人に聞き咎められた。
「諸戸先生、さっきからなにを悩んでるの?」
「え?ああ、お前と永遠に一緒にいるにはどうしたらいいかって考えてた」
「ぶはっ!ちょっと、何言ってるんですかっ!?ヤダなーもう冗談ばっかりアハハ!」
卓弥は顔を真っ赤にして慌てている。ここが研究室で、他の学生がいるのを気にしているのだ。俺的には2人が付き合ってるのはバレてるし他の奴らはどうでもいいんだが。
実際学生たちも慣れているのと研究にしか興味無いのもあって無反応だ。
「諸戸先生、ここの数字なんですが…」
卓弥が手でパタパタと顔を扇いでるのを気にもとめず男子学生が普通に質問してくる。この研究室は本当に居心地が良い。
俺はしばらくこの仕事を辞める気はないと改めて思った。
完
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