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君は僕の手にあまる③ ※先生視点
頭を重そうにふらふらしながら、汗と涙で湿った肌にうっすらと開いた瞼で懇願するその様子は、意識が飛んでしまうのではと思うほどに危うい。
今日は自宅に招いてしまったせいか、酒を入れたせいか、イライラして仕方ない。普段なにかに腹を立てることなどないに等しいのに。どうしてこの子のことになるとこんなに愛おしく思ったり腹が立ったりするんだ。
なぜこんなにも揺さぶりをかけてくるのか。何度話せばわかってくれるのか。入れたくないわけがないと理解しないのか。理解しているからやってるのか。元セフレが、大鳥が恋しくて泣きながらこの家に来た君は喜んで受け入れるが、彼の埋め合わせで抱く気はない。僕は彼の代わりには絶対にならない。
でも頭の片隅でもうここまでしているのだからいいじゃないかと思ってしまう自分もいる。欲望に負けてる自分がいる。
指をほんの少し動かすだけで吐息を漏らし、濡れた唇が、乱れた前髪が、僕を駆り立てる。さらに中をきゅ、きゅ、と締めたり緩めたりして誘ってくるのだ。柔らかいのによく締まるなと穴を外側を広げるように触っていたら、見透かしたように濡れたまつ毛を垂らした上目遣いで微笑む。
「ん、なか、動かすれんしゅう、たくさんしてるんです……だから、すっごくきもちいいんですよ……? ね、せんせ……」
だからなんでそんなに煽るんだ。たまらない。入れたい、入れたい、入れたい。煽ってごめんなさいと謝らせて泣かせて吐くほど突き上げてぐちゃぐちゃにしてやりたい。空になるまで、いや出なくなっても絶頂させたい。
もう頭の中がめちゃくちゃだ。理性が保てない、本音がダダ漏れる。ほどよいアルコールと出雲にぐらぐらに揺すぶられる。目を固く瞑り、頭を振って深く息を吐く。落ち着かないと。
今まできちんと手順を踏んできた。少し優しくすれば保健室に通うようになり、性的に見てるとチラつかせれば、淫らに崩れて求めるようになり。驚くほどスムーズにここまできている。しかしどう考えてもまだ早い。
きちんとした生活を好み真面目な顔をした君が、皮一枚剥がせば救いようのないほどいやらしい悪い子なのだと教えこみたい。僕のことが必要なのだと、そんなどうしようもない自分を受け入れるのは僕だけだと刷り込ませたい。
やはりまだ早い。もっともっと焦らして、抱かれることに焦がれに焦がれてから。
今まで何も欲してこなかったが、この子だけはどうしても欲しい。僕はこの子が大好きなのだ。可愛い出雲をちゃんと、本当の意味で自分のものにしたい。
しかしこんなことばかりだと自分の限界がいつくるかわからないので、賢いこの子には最もらしい理由をつけてわからせたほうがいいだろう。早速だがすでに左手の指を三本入れているそこに、尻肉を掴んだままでいた右手の人差し指の挿入も試みる。
「ひぁっ! え、あっ!」
少しの抵抗はあるものの、案外にすんなりと入っていく。まだいけそうだと中指もゆっくりと挿入すれば、ずっぽり咥えこんでしまった。しかし腰が跳ね、目が覚めたかのように目を見開いて歯を食いしばる姿は辛そうだった。この状態で掻き回したらどんな反応をするだろうかと思いながらそれを我慢する。
「指動かして……いい?」
ほんの少しズルりと動かしただけで、出雲は僕の肩口に顔を埋めてふるふると首を横に振った。
「きつい?」
今度はこくこくと頷く。
「じゃあ……僕の、入らないよ」
「え……?」
肩におでこを擦り寄せたまま、ほんの少し顔が上を向く。
「冗談抜きに……ペットボトルくらい、ある。触っていいよ?」
肩に置かれた手が、恐る恐るといった感じでそっと下がっていく。
そうしてすぐに手に届いてしまった男性器に驚いて肩を震わせた。ズボンの上からだが先端に指先が触れ、形を確かめるようにゆるく握る。
「え、あ、あ、うそ……すごいです……」
怖がるかと思ったが出雲は、はぁぁと感嘆のため息を漏らし、うっとりとした声で感想を述べた。入るのを想像したのか、中もきゅううと指を締めてくる。このサイズを見ると風俗嬢にすら嫌がられるのに本当にこの子はどうしようもない好色だ。
「どうしよう、おっきい、おっきい……入らないですか……? やだ、やです……これほしいぃ……」
涙声になりながら上下に摩られ、すでに興奮している状態でそれをされるのは僕もきつい。注意をそらすためにお尻に入れた左手の指と右手の指を、交互に動かして中を擦りだした。抜き差しに収縮する暇もなくズルズルと入口を擦られ、出雲は仰け反る。
「あ、だめ、あ、あ、あ、そんなッ、擦ったら、あぁッあぁッ」
可愛い耳のほくろに口付け舐めて、耳元で囁けば熱い吐息混じりの声になってしまった。
「括約筋、損傷したら……大変だから、ね? ゆっくり……拡張しようね?」
本当はこれくらい広がればなんとか入りそうな気もするけれど。
しかしそんなことわからない出雲は激しく喘ぎながらも一生懸命頷いてくれた。出雲に似合いそうな玩具を用意しないといけないな。
「でも拡張して、僕の入れたら……他のじゃ、物足りなくなっちゃう……かも。いいの?」
頷くのをわかってて聞いているが、頷く前にわざと両側から前立腺を挟むようにして擦ってやる。すると腰どころか全身跳ねながら瞳を上に向け、舌が飛び出すほどの大口を開けて声を上げる。
「ああぁぁぁっ! アッ、アッ、やめッ、むりっ、あああぁっ、しんじゃうっ」
「嫌、なの? 僕以外の……入れるの?」
指を曲げて両側からぐりぐりすると歯を食いしばって息を止め、ビクビク反応するのに合わせて首を横に振った。奥歯を悪くしてもいけないと思って少し手を緩めると、呼吸ができるようになってハァッと大きく息を吐く。いつか最中に殺してしまいそうだ、気をつけよう。それにしても中がよく拡がって良い穴だ。本当にびっくりするくらい全部が可愛い。
「いれにゃ……ぁ、いれな、いッ……! せんせいの、せんせいの、おっきいのがいいっ……」
「ほんと? 今日は、出雲……とくに、悪い子だったから……どうかな」
「ふ、うぁッ……ごめんなしゃ、ごめんなさい、あ、いい子になりゅ、いい子になります、せんせぇ……っ」
僕にしがみつきながら、あぁ、あぁ、と声がずっと漏れているせいで涎まで垂らして感じてる。凄く気持ち良さそうで見てるだけでこちらもつられそうだ。しかし急に唇をぎゅっと結んで苦悶の表情を見せる。どうしたのかと思ったら寒気を感じているかのように背中がぶるりと震えたので、イキそうなのがわかった。何度も何度もゾクリときているようだ。
「イクの……我慢してる?」
聞いてみれば、胸に頭を押し付けながら頷く。
「さっき、がまん、しなかったから……っ」
「そっか、いい子……もう、イッても……いいよ? ほら、気持ちいい……?」
強く抉るようにする動きから、小刻みに早く擦る動きへと変えてあげる。それに合わせてひっきりなしに上がる声の感覚が短くなっていき、絶頂が近付いてるのがわかる。
「あ、あ、あ、あ、またイッちゃうまた、あっ、せんせ、せんせぇっ!」
絶叫に近い声で僕を呼びながら背中を大きく震わせると、一気に脱力して腰を落とし、僕の胸元に倒れ込むように抱きついた。指を抜いて肩で息をする身体を支えると、Tシャツは汗でぐっしょりと濡れていた。Tシャツの中で二回射精しているので、前はもっと酷い状態だろう。
少し休ませたら順番でシャワーを浴びて、その時に抜こう……などと考えていたら、まだ休んでいればいいのにゆらりと出雲は身体を起こし、ソファから下りて膝立ちになった。まだ余韻に浸ったとろけた顔で、僕の両手を掴む。
「せんせぇ……立ってください」
「うん? なんで?」
「先生もイキましょう? 俺の口……ううん、喉、オナホにしてください」
微笑んでるんだかとろとろなんだか判断に困る顔で開けた口を指差す。思わず生唾を飲み込んだ。
「喉……? つらいよ?」
「俺、よく口だけ使われてたんです。大丈夫なので構わず一番奥まで入れてください……先生にも、気持ちよくなってほしいです」
本当はまだ触らせるのもしない予定だったのにと躊躇するが、さぁどうぞと手を引く出雲に抗えない。立たされてすぐにズボンと下着を下ろされてしまい、重量を持って飛び出す初めて見たそれに出雲は目を丸くした。息がかかるほど近くで観察しながら軽く握るように手のひらで包んで撫でる。
「はぁ、すごい……しかも、少し下反りなんですね……これなら起きたままでも喉に入れやすいです。あ、興奮しちゃいます」
「本当に……奥、大丈夫? 僕のじゃ……イマラチオとか、ディープスロート、なんてレベルじゃ……すまないよ?」
「喉、気持ちいいんです。この大きいので、無遠慮に擦られたい……はぁっ……」
根元にちゅっとキスをしたと思えば、そのまますーっと先まで舐め上げる。ピンク色の小さな舌が子供みたいだ。そして大きく口を開けたままべろを出して、入れてと合図するように下唇を人差し指で指し示す。
「どうしても、先生のおちんちん、入れてほしいんです……おしりだめなら、お口にください。お願いします、おちんちんいれてっ……」
彼に仕込まれたのだろうと考えるとなんとも複雑な思いだったが、出雲のあの、一口一口小さくパスタを食す姿を思い出し、どうにか口に入るかどうかという太さの自分のものを突っ込むのを考えただけで興奮した。おねだりに上を向く喉を擽るように撫でる。恐らくこの喉仏のあたりまで入るのではないか。
「どこに……出す?」
僕が乗り気になっているのがわかって出雲は口角を綺麗にあげて笑う。嬉しそうだ。
「顔でも、お口の中でも、舌の上でも……胃に直接流し込んだっていいですよ?」
「うわ……すごい、殺し文句」
「これで興奮するって、先生やっぱり変態ですね。先生のえっち」
出雲はもうじれったかったのか、先端にキスをするとそのまま大きく口を開けて、少しずつ僕の男性器を飲み込み始めた。限界まで大きく開いた口にぴったりハマるほどの太さに二十センチを超える自分のものが、どんどん出雲の口に吸い込まれていく。
実をいえば出雲を立たせようとしていた時には半ば勃起しており相当辛かったので、暖かい口の中に収まるだけでも大分まずかった。ぴったりと吸い付きながらも舌を丸めているため、裏筋が擦れて堪らなく気持ちいい。あー、喉ちんこに当たってる。
出雲は口がもういっぱいいっぱいなので声は出せないが、目を伏せて頬を染めながら、ん、んと喉を動かす。
「う、わ……はぁ……」
出雲は本当に規格外のサイズをした僕の男性器を根元までずっぽりと咥えこんでしまった。ああ、もうそのビジュアルがやばい。
喉仏のあたりをさすりながら腰をゆっくり引き、奥まで入れるとぼこっと喉仏の下が盛り上がる。綺麗に食事して食べ物を飲み込む時に上下していたあの可愛い喉仏の下で、男性器に押し上げられているのだ。最初はそれを観察しながらゆっくり出し入れをしていたが、次第に我慢できずに腰の動きを早めていく。ボコッボコッと喉に性器のシルエットが浮かぶのを見てるだけでイキそうだ。たまらなくて出雲の喉越しに浮かび上がる自分のモノを何度も撫でる。
呼吸のために途中途中で抜くと、ぐっ、ごふっ、と苦しそうに汚い音を漏らす。咳き込みが終わるのを待たずにやや無理矢理に挿入すると、赤い顔をしている癖に恍惚とした表情を見せて受け入れるために喉の角度を調整する。
「ん……出雲……きみ、本当に……すごく、えっちだね」
目がとろんとしてる。可愛い。オナホにしてくださいってお願いして、こんなことされて喜んで。
入れてる際に苦しさや吐き気などはほとんどないようで、上顎と舌をくっ付けた暖かいぬるぬるした壁に擦れて、中に入れているような気分になる。頭を両側から押さえつけて無我夢中で腰を振った。好きな子を物みたいに扱って自分の好きなように支配していることにも興奮する。あ、オナホだから物みたい、じゃないね。
「いずも、いく……だすよ……?」
声をかけると、こちらを向いて目を細める。いいですよ、と言ってくれているようだ。
「はぁ、はっ、んっ……」
掴んだ頭を強く固定し、激しいピストン運動の末に一番喉の奥まで差し込んだ状態で射精した。ごくりと喉を動かして飲み込むような音が聞こえるが、先端は喉よりも下にあり、誇張ではなく食道へとダイレクトに精液がどくどくと流し込まれていく。
暫くそうしたあと、萎えて少しばかり縮んだ性器をずるりと口から引き抜いた。咳き込みながら口元を手の甲で拭う出雲の顎に触れ、上を向かせる。荒い息をしているが、目にいっぱい溜めた涙をキラキラと輝かせて天使みたいに可愛い顔で微笑んでくれた。
「はぁ、はぁっ……気持ちよかったですか?」
「無理……」
「ん、また無理って言う……無理ってなんですか」
「これは……癖に、なる……無理」
本当に今更だが出雲に手を出してしまった後悔の念が沸いてきて頭を抱えてしまう。しかもまたしてくれるって言われた時に断る自信がない。あの支配欲が満たされる感覚は他では味わえないだろう。
「いつでも使っていいんですよ?」
あーと小さく声を出して口をぱっくり開き、さっき何度も擦り付けたのどちんこを見せつけてくる。
「悪い子……」
僕の反応を見てくすくすと笑う出雲の腕を引き、立ち上がらせた。すると平気な顔をしている癖に足元がふらついていたので、いつものように腰を抱いて抱き上げる。あ、許可を取るのを忘れてしまった。しかし出雲は怒らない。
そのまま浴室へ連れていき、どろどろになった二人分の衣服をドラム式洗濯機にほおりこんで、一緒にシャワーを浴びた。今日だけで一線どころか何線も超えてしまった気がする。もう過ぎたことを言っても仕方ないけれど。
出雲の身体を洗いながら尻にだけは絶対にその時がこないと入れないと、僕は固く誓うのだった。
身体を綺麗にして二人で一緒にベッドへ潜り込んだ。横向きに寝転ぶ出雲を後ろから抱きしめる形で隣に並ぶ。僕と同じシャンプーやボディソープを使ったのに出雲の身体のほうが甘い匂いがするのは若さゆえなのだろうか。
胸や腹を撫で回してるとくすぐったそうに出雲が身をよじる。
「先生……触りすぎですよ?」
「明日に、なったら。もう、触らないから……今、だけ」
「明日も触っていいですよ」
「だめ」
今日はもういい。さすがにもうしないし、今日は特別。
後頭部に鼻先を埋めて柔らかい感触と香りを噛み締めながら、滑らかな肌を楽しむ。出雲はお腹を撫でる僕の手に自分の手を重ねて指の形をなぞってくる。気持ちがいい。
「あの……三が日、お家にいらっしゃるならどこかでお邪魔してもいいですか?」
「いい……けど。あまり……大人を、からかわないでね」
「いえ、どうせろくなもの食べないつもりでしょう? おせちを多めに作って詰めて持ってこようかと……」
「おせち……」
馴染みのない言葉から連想するイメージはコンビニなどに年末大量に並ぶ注文書だった。ピンときてない僕に気がついて出雲は肩越しにこちらを振り返る。
「お嫌いですか?」
「いや……食べたこと、ない」
「じゃあお雑煮とか」
「ない」
「あの、クリスマスにケーキとか」
「ない」
「お誕生日ケーキ」
「ない」
これに関しては何を聞かれても全て答えは“ ない”だ。
学生時代の給食やらで食べた以外にイベントの何かを食べた記憶がない。
「ああ……大学時代に、クリスマスケーキは……食べた、かも……?」
朧気な記憶を辿るが確証はない。出雲は寝返りを打って、首を捻る僕と向き合った。頭を撫でられ、頬を撫でられ、また頭を撫でられる。笑っているわけでも怒っているわけでもない表情は暗がりではよくわからなかった。
「先生は何を食べて育ったんですか?」
「給食と、パン」
「パンってどんなものです?」
「えぇ……? あんぱん、とか……?」
答えながら、ああこの子も僕が偏食だとか可哀想だとか言い出すのかなと思った。めんどくさいなぁ。これだけ煙草吸ってもお酒飲んでも健康そのものだし、どうでもいい事なのだけれど。
出雲は僕の胸に抱きついて、頭を撫で続ける。そして僕が今までの人生で聞いたものの中で、一番優しい声を紡いた。
「よくこんなに大きくなりましたねぇ。先生、すごいです。えらいです」
そんなことを言われたのは初めてで、言葉が出なかった。
ただ、出雲の小さな背中を苦しくないように、でもぎゅっと抱きしめる。
「ご馳走ちゃんと用意しますので一緒に食べましょう。面倒くさがっちゃだめですよ?」
「出雲が……あーんして、くれるなら」
「何言ってるんですか、だめです。食べさせてあげるのは少しだけですよ」
怠惰な発言に撫でていた頭をこんと叩くが、またすぐに撫でる手に変えて笑って甘やかしてくれる。
ずっと撫でられてると眠くなってくるなぁ。思考がぼんやりとしてくる。僕は食事に重きをおいて生活していない……けれど眠気にゆったりと浸かりながら、出雲の作ってくれるご飯が楽しみで仕方なかった。
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