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まだまだ愛は足りません②

「ベッド……行こうか」  触ってもらえるかは分からないけれど、気持ちいいことはするんだと思ったらおしりの奥の方が切なくなって、目を瞑って頷いた。先生はいつもの子供にするみたいな前抱きではなくて、横抱きにして立ち上がった。あの、王子が姫にやるやつである。よく使われる名称は恥ずかしいので言えないけれど。 「こうすると……顔が、よく見えるね」  額に唇で触れて、ベッドルームへ運ばれた。なんだか今日はとても雰囲気が甘い……そっとベッドに下ろされ、服に手をかけて着ていたスウェットとインナーを脱がされた。そのまま脇腹をなぞる指に震える。  あれ、本当になんだかいつもと様子が違うのだけれど。抱かれてしまう? これは抱かれてしまうのでしょうか?  ムードを壊したくなくて、バクバクと心臓を鳴らしながらじっと先生の指を待つ。指はどんどん上昇していき、胸の横を通過して首筋へ。心地が良くて要所要所でぴくんと反応してしまう。最後にその手は耳たぶをなぞり、口付けながら囁いた。 「バンザイ、して?」 「え……? こうですか?」  突然の要求に呆気に取られながら素直に両手をあげた。 「交互の肘、持って」  首を傾げながらもそれにも従う。先生は、そのままね、とベッドから離れてしまった。  うん、抱いてもらえなそうです。それどころかなんでしょう、拘束する気でしょうか。  せっかく気持ちを丁寧に伝えたのに、高校卒業するまでやっぱり抱いてもらえないのだろうかとしょんぼりしてしまう。しょんぼりしながら、拘束されそうなことをあまり気にしていない自分に変な耐性ついてきたなとしみじみした。そしてクローゼットから戻ってきた先生はやっぱり拘束具を持っていた。桃色でなんだかふわふわしている。 「縄……で、いい?」 「他に選択肢があるんですか?」 「うん……でも、僕は、縛りたいんだけど」  聞いておいて結局は返事も待たずに上に乗り、肘から手首にかけて雑に縄をまかれていく。それまで冷静だったが最後にキツく縄を結ばれた時にはさすがに少し怖くなった。縄自体は毛の長いタオルのような柔らかい素材のものだが結び目のあたる手首の下ら辺が食い込んで少し痛い。 「可愛いね」  先生の手が左胸をそっと押さえる。 「ドキドキ……してる。リラックスして」 「こ、こんな……縛られてたらリラックスできません。何するんですか」 「きみ……すぐ、ここ。触っちゃうから」  膝で股間の前のほうをぐりぐりされ腰が引けてしまう。まだ元気のないそこをそのまま強弱をつけて押し付けたり左右に揺らされたりして変な気分だ。 「や、ちょっと……やめてください、そんな風にするのはっ……」 「ちょっと、立ってきてる」 「刺激されたらすぐ反応しちゃうんですよっ!」 「若いね」  くすりと笑われカッと頭に血が上る。期待させたと思えばよく分からないことをして、全く。先生は膝を元の位置に戻し、今日はここはもうおしまい、と宣言した。そして両方の手のひらで胸全体を撫で回す。 「あっ……先生、くすぐったい……」 「女の子の名前、つけられちゃった出雲は……今日はここだけで、気持ちよくなろうね」 「え、だけって……下はナシですか」 「うん。なし」  ゆったりとしているのに有無を言わせない口調に押し黙ると、反論する余地もなく指の腹で乳首をさすり始める。触れるか触れないか程度の優しいタッチでするすると人差し指が揺れる。背筋がゾワッとして落ち着かない。自由のきかない両腕をもじもじと動かす。 「ん……んぅっ、は……」 「息、止めないよ?」 「えっ……? あ……」 「ゆっくり……呼吸して」  耳元で優しく囁かれ、身体を揺すりながら先生の指の動きに合わせてゆっくり、ゆっくり、息を長く吸って吐いた。緊張に固まっていた身体からすっと力が抜けていく。 「目、閉じて。僕の指に、集中して」  暗示でもかけられてるかのようにすんなりと言うことを聞くと、暗闇の中で先生に触れられたところからじんわりと全身に気持ちよさが広がっていく。下半身がむずむずして腰を揺すっていると、先生にだめだよと注意されてしまった。 「胸に、集中して。出さないよ。出ないよ。ね? 今日は、女の子のきぶんで」 「あ……」  優しく爪で引っかかれる。気持ちいい。女の子の気分なんて言われたって困ると思うのに、ずっと乳首や胸全体をさすり撫でられているとなんだかよくわからなくなってくる。ゆっくりとした呼吸は続けているが、だんだんはぁー、はぁーと耳に響いてうるさいほど荒くなっていく。すっと脇腹を撫でられるのも感じてしまう。 「あっ……せん、せい……」 「気持ちいい?」  なんだか言葉が出なくて小さく頷く。 「いい子だね。おっぱい気持ちいいって、言ってごらん?」 「あ、はずかしいです……」 「いつももっと、恥ずかしいこと……言ってるよね? ほら……」  いつもはもう激しく感じて、気持ちよくて気持ちよくて訳が分からなくなってるから言えるのであって、今のこの穏やかな気持ちよさの中それを口にするのは抵抗があった。でも、先生の言うことをちゃんと聞いていい子にしたら、きっともっと気持ちよくなれる。 「気持ちいい……おっぱい、気持ちいいです……」 「いい子」  人差し指と中指で優しく乳首を挟んで、上下に擦られる。左手は胸を遊び、右手は脇の下から脇腹あたりまでを撫でるのを繰り返す。いつもならくすぐったいはずなのに、ぞくぞくとする気持ちよさに身を捩って感じながら、両手を拘束されて逃げ場がないと理解させられもういっぱいいっぱいだった。  息が乱れ、額に汗が浮かぶ。もう一度長く息を吐くと、乳首にぬるりとした感触が走った。 「あぁ……あぁ……」  強く吸ったりすることはなく、あくまで優しく優しく、ゆっくり何度も舌が往復する。気持ちいい、ずーっとずーっと気持ちいい。いつもみたいに強制的に溶かされるのではなく、じっくりバターを溶かすようにとろとろにされていく。 「せんせぇ……きもちいいです……いつもと違う、きもちいい……」 「うん、リラックス……できてるね。今日の出雲は、いい子だね。可愛い」  褒められると腰の、後ろの方がきゅんとした。お尻ともおちんちんとも違う、もっと奥、身体の真ん中のほう。  身体をずっと愛でられているような愛撫ではあるけれど、少しずつ与えられてる刺激が強くなっている。それに合わせてなんだかイキそうな、また違うような、高まる感じがしてくる。ずっとこの感覚に溺れたい。 「はぁ……あぁぁ……せんせぇ、せんせぇ……ずっとして、きもちい、気持ちいいです……なんか、すごくて……」 「うん。たくさん……してあげる。もうすっかり、女の子だね」 「や、ちがう……」  首を横に振るが、足を動かした時に、こんなに気持ちがいいのにちっとも勃起していないのに気がついた。びっくりして少し腰を浮かすと、下着がありえないほど濡れていて冷たい。  勃起しないでとろとろに濡れてる自分になんだかショックを受けたが、それよりも本当に先生に女の子みたいにされてしまっている興奮が強くてますます気持ちよくなってしまった。頭の後ろが、首の付け根が熱くてぽーっとする。 「先生、すき……すきです、すき……気持ちいい……」  甘えて繰り返せば、口付けで返してくれる。体全体を包む優しさと一緒に好きという気持ちが溢れて、たくさんすき、すき、と囁いた。  先生は飽きずに微笑んで、甘い囁きや愛撫を返してくれる。ずっとずっとイッているような、それともその寸前のような、もうただただ気持ちが良くてたまらない、終わりのない感覚にずっと溺れた。  どれくらい時間が経っただろう。先生にひたすら可愛がられてもう一生このままでもいいと思っていたが、身体もぐったりしてきた頃にあろうことか鼻血を出してしまった。びっくりして快感の波がスッと引き、ひあっと間抜けな声が出る。 「せ、せんせい、せんせい!」 「うん? あ、鼻血……ちょっと待って」  先生はあっさりと身体を起こし、縄を解き始めた。そういえばこんなことになっていたのを忘れていた。腕が自由になって下ろすときに肩がパキパキと鳴るのに顔を顰め、小鼻をおさえた。 「ごめんなさい、シーツが……」 「きみは……そんなこと、いいから。起きれる?」  肩を抱かれ、ゆっくりと身体を起こされた。問題はないけれどなんだかまだふわふわしている。下を向いて小鼻を押さえながら色々と落ち着くのを待った。 「本当に興奮すると鼻血って出るんですね? 驚きしました……」 「いや……出ない、よ? たまたま、粘膜が弱ってた……かな?」 「なるほど……」  それにしたってこんな醜態を晒してしまうなんて。プレイ中に。恥ずかしい。しかし枕元の時計を確認したら既に一時間ほど経っており、これはもうやめとけという合図だったのかと思った。  あのまましてたらどうなっていたか考えると……ちょっと恐ろしい。いやもう手遅れかも、何かを失ったような……でもそれが別に嫌じゃない。例えるなら二回目の処女を奪われたような気分だった。一回目はもちろんハヤトに奪われたアナルバージンである。それにしても自分で相手に何かするのは慣れているが、こんな風にされることはなかったので未だに落ち着かない。 「鼻血……いいね」 「へっ?」 「舐めて、いい?」 「や、あの……!」  ベッドの端に並んで座っていた先生は顔を自分の方に向かせ、鼻を押さえていた手を引き剥がした。そしてべろりと鼻の下から鼻の頭まで舐め上げる。あまりのことにびっくりしておおきな声で制止した。 「は、鼻血止まらなくなりますから! ちょっと!」 「また出してくれる?」 「無理ですよ! そんなピューピュー出してたまるもんですか!」 「じゃあ、少しだけ……ちょうだい」 「うっ……ひぇ……」  鼻の穴にちろりと舌の先が入る。さすがに鼻の穴を舐められるのなんてはじめてでもう訳が分からないし、背筋の悪寒が止まらないしでどうしようかと思った。 「出血してるとこ、舐めたいけど……炎症起こしたら、可哀想」 「舐めなきゃいいんですよ、舐めなきゃ」 「うん……がまん」  やっと解放されて小鼻を押さえようとしたが、なんとびっくり血は止まっていた。まぁ時間経過によるものだろう。 「怪我したら、舐めたい……ちゃんと消毒する、から」 「先生、久しぶりに本気で気持ち悪いです……」  もう血は出てないが先生から守るために鼻を両手でガードする。 「さっきまで、すきって……言ってた」  ぎゅっと抱き寄せられて首筋に顔を埋めてまたすりすりされる。まだ上を脱いだままなので髪の毛がとてもくすぐったい……し、さっきの感覚が戻ってきそうで、先生の体をちょっと押す。 「好きですよ。鼻血舐められても嫌いにはなってないです。 俺の気持ち認めてくれました?」 「まだ……全然、足りない」  また抱き寄せて首筋から耳までキスを降らしてくる。そんな風にされるとやはりまた感覚が戻ってきて、吐息を漏らした。 「出雲……すき、かわいい。僕の出雲」 「そうですね、先生ので、いいです」 「ほんと?」  頭を撫でられるので、俺も先生の頭を撫で返した。すると、無表情を崩していつもの微笑より、もっと笑顔を見せてくれた。へらりと、朗らかで可愛い。でも俺も先生のものでいいくらい好きなのだとわかってほしいなと少し寂しい。 「出雲……」  肩を抱く先生の手がするりと滑って胸の先端を遊ぶ。すると簡単に身体が熱を持ち出す。 「もっと、可愛がっても……いい?」  耳元で聞かれて、ぶるりと身体が震えた。あんなにもうしてくれたし、先生が気持ちよくなるわけじゃないのに。先生に悪いのではと思ったが、だめ? と首を傾げてくるのでぶんぶんと首を横に振った。 「一晩中、気持ちよくなろうね」  ああ、もうダメだぞわぞわする。  宣言通りこの日はずっとずっと、前後不覚になるくらい、ベッドに溶けて染み込むのではないかというくらい、可愛がられ溶かされてしまった。  こんなの言われなくたってもう俺の全部は先生のものだ。先生のもの、先生の所有物。それが、一番気持ちいい。    

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