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台風警報④
肩や首筋に何度も口付けられながらたっぷりたっぷり指先で前立腺を撫でられ絶頂感が高まっていく。背を反らして先生に寄りかかり、ビクビクと身体を震わせた。
「あ、あ、きもちいい……っ! せんせい、せんせい……いく……いっちゃう……!」
「いいよ……ほら、ここも。欲しかったね。我慢したね」
「ひぁぁッ! しぇんしぇ、あっアッ」
カリカリと前立腺をかかれてもう限界というところで男性器をするすると握られる。もうだめだ、我慢できない。先生に前立腺なでなでしてもらってるのにおちんちんもしこしこしてもらってる。気持ちいい、気持ちいい、おかしくなっちゃう。
「いっちゃう、ぁ、アッ、でる、でるでるッ、ぅぅ、あッ」
びゅるっと精液が放出され、先生はそれを手で包み込むように受け止めて精液をぬるぬると亀頭に撫で付けながら扱く手を止めない。くるくるくるくると撫で回され、体全てをそこに持っていかれるような感覚に襲われる。俺はこの感覚を知っていた。このまま続けられると潮を吹いちゃう。
「ひゃ、あ、しぇんしぇ、らめぇ……! それ、らめなの、もらしちゃうぅぅ」
「うん。見せて」
全身ざわざわして悪寒が止まらないような、他では感じられない感覚。全神経が引っ張られる。いつもこのまま死んでしまうのではないかと錯覚する。
「おもらししちゃう、やら、や、あっ……しぇんしぇ、ごめんなしゃ、ひゃ、でちゃう、でちゃううう! あっあっあっ」
びくんっと一際大きく全身が跳ね、次の瞬間には透明な液体をぴゅーっと排出させながら手足の力が抜けていった。先生にもたれかかり、だらりと手足を伸ばす。
先生は抱えていた膝を下ろし、そのままベッドに横たわらせて、自分も隣に並んだ。ぎゅっと抱きしめて頭をたくさん撫でられる。
「たくさん、出たね……いい子。気持ちよかったね」
目を瞑って胸を大きく上下させながら呼吸し、もう指先一つ動かすどころか瞬きもできなそうな脱力感に襲われた。先生と一緒にいると自分に降りかかる嫌なことが全部どうでもよくなる。俺はただひたすら自分の頭を撫でる先生の手に全神経を集中させたのだった。
ぱちりと瞬きをしたら、もう夕方になっていて驚いた。体操服とジャージをしっかり着込んだ状態で身体を起こす。そこは先生と行為をした真ん中のベッドではなく、窓際のベッドだった。真ん中のベッドは沢山濡らして汚してしまったし、酷い有様だったに違いない。先生に申し訳ないな。
外を見ればもう太陽が沈み始めていた。もう次期に暗くなるだろう。
気怠い身体を何とか動かしてベッドから離れ、カーテンをそっと開けた。先生は事務机ではなく、ソファに腕を組んで座り、こっくりこっくりとうたた寝をしていた。
くすりと思わず笑みを漏らし、そっと近づいて隣に座る。そして耳元で先生、と声をかけた。
「ん……いずも……? おはよう」
気がついた先生が瞼を擦りながら抱きついてくる。可愛い。
「先生、ここではだめですよ」
「うん……」
いつもよりさらにぽーっとして頷き、ここは外からも廊下からも丸見えだからだめだと言っているのに頬にキスをしてきた。そして頭にすりすり頬をよせてくる。
「眠い……帰ろ……」
「車ですよね? 事故起こさないでくださいね」
「善処する……」
んーと長い腕をさらに伸ばし、そういえばと先生は立ち上がって事務机の上から見慣れた弁当包を持ってきた。
「お腹、空いた?」
「あ……胃が空っぽです……」
気がついた途端、きゅるると腹が鳴る。聞こえてないくらいの音のはず、と思ったが、先生は無表情のまま口をおさえてぷるぷると肩を震わせていた。もう、と肩をぺちんと叩く。
「出雲が、食べたら……帰る。食べな」
「はい、お言葉に甘えて……」
手を合わせていただきますをし、包みを広げた。食べ始めるが、先生がやたらと嬉しそうに微笑みながら隣でずっと見てくるのでちょっと気まずい。先日おうちにお邪魔した時もそうだったが、先生は俺が何か食べているとやたらとじぃっと見てくる。
「あの、すみません、寝てしまって。俺だけで、先生はその……あのあと処理は……」
「ああ……」
恥ずかしくて言葉を濁すと、先生は察したようでうんうんと頷いた。
「顔に、かけた」
「え」
「寝顔に」
あんまりさらりと言うものだから一瞬何の話かと思ったが、今度は俺の方がすぐに察して、顔が熱くなるような寒気がするようなとにかくあまり良くない感覚にゾワッとした。におい大丈夫かなと鼻をすんと動かしてしまう。
「ちゃんと……拭いたよ?」
「あ、はい……そうしてもらわないと困りますけど」
「怒んないの?」
何故そこで首を傾げるのだろう。怒られるのを期待しているのか。呆れてため息をついてしまう。
「怒っていいんですか? じゃあなんか気持ち悪いので今度からは寝てる間はやめてください!」
「起きてる時は……いいの?」
そして、揚げ足をとってくる。こういう言葉の隙をつつくのはやめてほしい。けど、まぁつつかれた隙はいつも図星というか、本心で。耳まで熱くなってしまう。
「先生、嫌いです」
「嘘」
「え?」
初めての反応に驚いて顔を見る。やっぱり先生は微笑んでいた。無表情じゃない、起きてからずっと先生は優しく笑ってる。
「僕のこと……好きになってきたなって」
「あ、その……」
「好き?」
好き、なんだけども。
改めて聞かれるとどうにも照れくさくて卵焼きを口に入れて誤魔化す。しかしずいと顔が近づいてきて、びっくりして飲み込んでしまった。まだあんまり噛めていないのに。
「好き?」
もう、もう本当に勘弁してください。でもやっと先生に気持ちを少し認めてもらえて嬉しかった。片頬ずつ順番に手で押さえて熱を取り、精一杯先生を見つめる。
「好きです……先生が、好きです」
「うん」
ちゅ、と軽くキスされる。
「まだ足りないけどね」
まだ足りないのか……と思いつつきんぴらをつつく。でも、別にいい。先生の傍から離れる予定もない。ゆっくりでいい。挿入は……してほしいけど。
「いずもん」
卒業までかぁ、と首を捻っていたら、先生が急に友人たちに呼ばれているあだ名で呼んでくるのでびっくりした。
「可愛いあだ名……だね? 僕も、呼ぼうかな」
「えー、やですよ。嫌なんですよそのあだ名。絶対だめです」
「けち」
「けちで結構です」
いつの間にか定着していたがなんかのキャラクターのようなあだ名であまり気に入ってはいなかった。慣れてきてしまったが最初は外で呼ばれるのが本気で嫌だったくらいなので、先生に呼ばれるのはご遠慮願いたかった。ただでさえ名前にコンプレックスがあるというのに。
暫くはあだ名をいじられたことで不貞腐れていたが、ふと山下がハヤトとのことについて話していたことに気がついた。もしも彼とのことで変な噂が立っていたらどうしようと胸騒ぎがする。保健室は立ち寄る生徒も多いので、とりあえず先生にそれとなく噂など流れていないか聞いてみた。しかし先生は平然ととんでもない発言をした。
「ああ。大丈夫……山下に話したの、僕だから」
先生の奇天烈な発言には慣れているが、これには流石に我が耳を疑った。空いた口が塞がらず、ぱちぱちとやたらと瞬きを繰り返してしまう。
「な、なんで……なんでですか? なんでそんなこと」
「ずっと……鬱陶しいなって、思ってた。あの子たち……君のそばにいっつも、くっついてて。僕のなのに」
あの子たち? 山下だけじゃないのだろうか。友人たち数人に知られたのか。え、なんで、どうして。鬱陶しいってなに。
もう問い詰めるのも忘れて言葉を失った。先生はそんな俺を見ても焦る様子もなく、いつものように頬を撫でる。
「あの子たち……心配、してて。きみのこと。大鳥に……いじめられてるかもって。相談しに来てくれた。好かれてるね?」
「それ……で、なんて答えたんですか?」
「合意の上で……しょっちゅう、保健室でセックスしてた。そう、言った。同性だし……差別とかあるから、ここだけの話ね、て。だから、大丈夫。広まらないよ」
あの子たちが良い友達ならね、と付け足しながら先生は薄く笑う。
混乱する。何故そんなこと言うんだ。嫉妬なのだろうか。それにしても酷い、酷すぎる。先生を責めると同時に、山下の去り際の発言を思い出した。彼に触られたのは納得がいかないし許さないが、あれは本心からのものだったのではないか。心配だったって、ごめんって。
どうしよう、あんなにひどいことをしてしまった。あそこまで言う必要なかったのではないか。後悔が押し寄せる。
「酷いです、なんで。いくらなんでも……そんな。そんなこと知られたくないに決まってるじゃないですか!」
「でも、本当のこと……だよね? 君の責任。捨てられて……明らかに、おかしかったし。不審にも思われる」
「でも、どんな風に思われるか想像つくじゃないですか。心配してくれてたのなら、なおさら。学校でそんなことしてたなんて」
「うん」
頷く先生に感情の変化は感じられない。ただ頭を撫でられる。その優しい手つきが逆に怖くなって、ぐっと身を固くした。
「君が……孤立したら、いいなって」
その言葉に、反射的に手を振り払った。先生は特に気にする様子もなく、ソファに寄りかかる。
「学校で、下級生の男子生徒と、セックス三昧。まぁ、引くね」
俺は先生の無表情か微笑みくらいしか見たことがなかった。しかし今目の前にいる先生は口の端を片側だけあげて、意地悪く笑っている。しかしすぐにふっとため息をついていつもの表情に戻った。
「でも……もう卒業、だし。大丈夫」
「でも、うちは大学附属なんですよ。ほとんど皆、同じ大学に行くんです」
「うん。そうだね」
「彼らも同じ大学なんですよ?」
「うん。ひとりぼっちに、なっちゃうね? 卒業したら、僕の目も……届かなくなるし。調度、いい」
もう何を話しても平行線な気がした。くすりと笑うこの人はきっと何も悪いことをしたと思っていない。
嫉妬……いや独占欲なのだろうか。自分のそれを満たすために、こんな酷いこと。
食欲が失せてしまい、まだ三分の一ほど残っていた弁当箱を閉じて包んだ。すっかり日は沈み、外は真っ暗だ。
先生が手招きをする。いつものように指先で、ちょいちょいと。戸惑いながらも近寄ると抱きしめられて。その長い腕につつまれ、すっぽりと納められて。
「もう……暗いね。車で、送る。駅前のロータリーで……待てる?」
抱きしめながら先生の親指が俺の身体をさするのが好き。愛おしいと言われているようで。
思っていたより危ない人なのかもしれない。このまま好きになっていくのは良くないのかもしれない。頭の中では警報が鳴っているのに、怒りを感じているのに、俺は頷いた。
だってこんなに俺のこと求めてくれる人は他にいない。
ああ、だってほら。
先生はいい子だねと甘く囁いて。
こんな俺に、笑ってキスをくれるのだ。
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