Ｔシャツをたくしあげてしまい、尖らせて僕を待つきゅっとした乳首に舌を伸ばす。すると僕が触れるよりも先に出雲は舌に乳首を押し当ててきた。相変わらず少しも我慢のできない子だ。反った背を手で支えてやり、何度も舌を上下に往復させる。 「ふぁ……あ、あぁ、あ、あっ……きもちい、きもちいよぉ……すきですぅ、すき、すきぃ……っ」 　とろとろになってくるといつもの丁寧すぎるくらいの口調もゆるゆるになってくるのが可愛い。その上胸を押し付けながらカクカクと腰を揺らして、自分の持っている全てで僕に甘えてくるのだから堪らない気持ちになる。 　口の中で少し固さが増した乳首に軽く歯を立て吸い付くと、密着した男性器がぴくりと揺れた。そして出雲は片方はキッチン台に手をついたまま、もう片方の手で僕の頭を抱いた。 「せんせ、せんせぇ……？ おっぱいに噛み跡つけて……ちくびぺろぺろしながら、おっぱい、かんでぇ……かんで、くださいっ……」 「きみ、肉が薄いし……平面だから、痛いよ……？」 「痛くして……はぁ、あ、いたいの、ほしいぃ……」 「すっかり、痛いの好きになっちゃった、ね？ どうしてすぐ、悪い子になっちゃうの……？」 　乳輪よりも外側に、歯を立てる。ぐっと力を込めていくと、頭を抱く手にぎゅうっと力がこもっていく。 「いっ……あ、あ、痛……やめ、ないで……痛がっても、やめないで……あ、うぅぅ……っ」 　はぁぁっと大きなため息と共に、我慢汁がとろとろと漏れて互いの性器が擦り合う狭い隙間に滑り込んでいき、二人が溶け合うかのように汚していく。痛みに耐えているため腰の動きを止めてしまった出雲の代わりに、小刻みに鈴口から裏筋を擦る。やわらかさの残る鈴口がぷちゅぷちゅとキスをしてくるようで気持ちいい。 　可愛いのでお返しにこの子が好きなカリの下を人差し指で撫でながら、歯と歯の間で乳首を押し回すようにゆっくり舐めてあげれば、痛さの中に甘い声が漏れる。 「あぁぁっ、あぁぁっ、あぁっ、きもちい、いたい、あ、わかんにゃぃ、あぁ、おかしくなる、おかしくなるッ……！ いたいのきもちいよぉ……！」 　喘ぎ声が涙混じりになり、鼻をぐすぐすと啜りながら喘ぐ声が愛しい。脳みそぐちゃぐちゃになるほど感じてほしい。正気になんて戻らなくていいからずっとたくさん可愛く甘えてほしい。キミが求めること全部してあげる。 　そんなことを考えていたら顎にますます力が入る。荒く激しい呼吸で喘ぎながら痛みを逃してるのが頭上で聞こえた。こちらも噛みづらく、ずっと歯を立てているのが難しいのでさろそろかと口を離した。 　痛みで縮こまってしまった可愛い乳首と乳輪を、薄い紫がかった輪っかが囲む。やはりあまり綺麗な歯形にはならなかった。それでも他の場所より痛かっただろうそこをチロチロとゆっくり舐めていく。 「あっ……あ、あ……」 「出雲……そろそろ、イッていい？ ほら、またすりすりして、僕にたくさん媚びて？ できる？」 「あ、あ、あぁぁぁぁっ……すりすり、しゅる……せんせいのおちんちん、しゅき、しゅきぃ……っ」 　上手に腰を前に押し出すように揺らし、好きで好きでくっつきたくて仕方ないというように、出雲の性器が僕に擦り寄ってくる。可愛い、本当に可愛い。ハマってしまいそうだ。 　親指で互いの尿道口をまとめてくるくると刺激しながら強く擦っていく。濡れすぎてぐじゅっぐじゅっと汚い音がキッチンに鳴り響く。 「せんせっ、せんせっ、イッちゃう、いくいく、せんせいのおちんちんに、せーえきかけていいですかっ、あ、あ、出る出る出る……！」 「待って、一緒に、ん、あー……はぁ、うん、僕もイケそ……いずも？ だすよ？」 　一際激しく擦り上げ、ほぼ同時に白い液体が噴射された。そのままどろどろとまだ動かしていた僕の手を汚し隙間に垂れ、混ざりあった二人の精液が竿まで絡みついていく。 　あまりに卑猥で凝視してしまったがハッとして出雲に視線を移すと、僕と一緒でそこに釘付けになっている可愛い涙顔があった。目が合うとお互いに少し照れてしまったが、ちゅ、と軽い口付けをした。 　 　キッチン台に座らせたまま離れて手を洗い、ガーゼタオルとウエットティッシュを持って戻る。大人しくちょこんとキッチン台に座ったまま待っている姿が可愛い。疲れたのか顔がぽーっとして力が抜けてる。 　汚れたところを綺麗に拭きあげていく間も大人しく、僕が拭きやすいそうに少し身動ぐだけだ。涙を流していたので顔も拭いていると、やっと口を開いた。 「先生、ティッシュがほしいです……鼻水出そう」 「うん？ ここには、置いてないな……キッチンペーパーでもいい？」 「うう、この際構わないです」 　ペーパーホルダーから一枚とって渡してあげれば限界だったようですぐにちんと鼻をかむ。身を小さくしてそんな小さな音を出して鼻を噛むのかと、なんだか感動した。出雲を見てると可愛いしか浮かばなくなってしまう。それは女子高生にしか許されないらしいけれど。 「なんですか？ 見すぎです」 「うん？ うん、えーと……」 「なんです？」 　可愛いから以外の言葉を考えてみるが浮かばない。 　僕をじっと見つめてくる出雲を見る。泣いたのとキッチンペーパーで鼻をかんでしまったのとで鼻の頭がちょっと赤くなっちゃってる。可愛い。 　やっぱり可愛いしか浮かばないな？ 「可愛いから、見てた」 「可愛くないですってば……」 「うん、だから他の言葉を考えたけど……なかった」 「それで変な間があったんですか？ もう……先生、やたらと素直ですねぇ」 　出雲が両手を伸ばすので抱きしめたらいいこいいこと頭を撫でられてしまった。 　あまりに心地が良くて頬の内側や眉間あたりがそわそわする。なんだろうこの感じは。初めて感じる。 　出雲といると初めて感じることだらけだ。 　必要に応じて他人の言葉や感情を理解するように努めてはいたけれど、それを僕が受け取ったところで心が動くわけではなかった。問題を出されてそれを解くイメージだ。しかも明確な答えを得られるわけでもなく、そこには達成感も感動もない。 　自分は他人と同じように一般的なコミュニケーションをとれていると思っていたが、出雲と長く一緒にいてそれができてなかったことにも気がついた。僕の発言にやたらと驚き反応するし、“先生節”とまで言われる。 　そして出雲を見ていると自分と出雲は全然違うと気が付くのだ。今まで人に関心がなく感情を心で受け止めることができなかったから、自分との違いに気付かなかったのだ。 　出雲以外に対しては今もほとんど変わらない。ただし、嫉妬や怒りを出雲の存在から引き摺られる形で関心を持つことはあるが。 　なぜなんだろう。 　鼻をかむなんていう些細なことでも、出雲がすれば感動してしまう。 　頭を撫でられただけで胸がぎゅっと掴まれる。 　いつだってその声を聞きたいし、その視線がほしいし、その身体に触れていたい。 　君が求めることなら何でもしてあげたいし、君が僕のそばにいるのなら法を犯すことも厭わない。 　けれど実際に法を犯し続ければ、君は誰かに取り上げられてしまうのだ。 「出雲……」 「どうしました？」 　優しい声に瞼を下ろす。まだ撫でてくれる手の動きがとてもよく伝わった。 「人と関わることって……みんなは、疲れないの？ 僕は君だけでいっぱいいっぱいだ」 「疲れますよ。でも嬉しいこともたくさんありますから。先生はどうですか？ 俺と一緒にいると疲れるだけですか」 「ううん……幸せ。でも、辛い。苦しい」 「まだきっと慣れないだけですよ」 　出雲の身体が離れ、頬を撫でて額に口付けをくれた。 　額に口付けをもらった時に下を向いたため、太ももにつけたばかりの歯形が目につきガーゼハンカチを持ってきたことを思い出した。冷蔵庫から保冷剤を出してそれで包み、少し股を開かせ患部を冷やす。 「んっ……先生？」 「これはさすがに……痕が、残るかも」 「え、いいです。残してください」 「だめ」 「もう先生しかこの身体は見ないんですよ？ いいじゃないですか」 　無視をして冷やすのをやめないでいたら出雲に肩を蹴飛ばされた。そして後ずさりした隙にキッチン台から降り、リビングのほうへ歩いていってしまう。 　後を追えばソファで拗ねた子供のように膝を抱えて丸くなっていたので、抵抗する腕を片手で押さえつけて押し倒し、膝で足を開かせ赤黒く浮かぶ僕の歯形にまた保冷剤をあてた。 「先生、やだ……なんで。消えなくていいんです。やめて」 「だめ……言うこと聞いて」 「先生のばか……意気地なしっ……だから俺に入れてくれないんでしょう……」 「ごめんね」 　出雲はいやいやと首を振ったあと、歯を食いしばって泣き始めてしまった。行為中流していた涙とは全然違う涙がぽろぽろと零れて頬を伝っていく。すぐにひっくひっくとしゃくり始めて、悲しくなって見ていられなくて口付けをして顔を隠した。 　その涙を見て、君が僕を煽るのは不安の裏返しなのではないかとやっと気がついた。僕を駆り立て僕を責め立て、離れないでとしがみつく。 　僕は何にも気づけないのに、君は僕の考えてることなんか全部わかってる。 　ずっとここにいるのだと何度も強調して僕に示して。 　情けない。 　僕は君になんて酷いことをしているのだろう。 　息が苦しくて、胸からなにか込み上げてくる。また眉間と頬の奥の方がむずむずとして、唇を離した。 「先生……？」 　力が抜けて、そうしていられなくて出雲の腕を解放した。う、と声が漏れる。息が詰まって、口を開けたら吐息が震えていた。 　出雲の頬に雫が落ちる。一度落ちたあと、ぱたぱたとそれはまた三粒ほど落ちた。 　目の前の出雲の顔がくしゃくしゃになっていく。 「先生……ずっと一緒にいましょう？ ね？」 　声が出せず肺が震えあがる感覚に耐える僕を、出雲は抱きしめた。保冷剤が床に落ちる音がする。 　僕が普通の男だったら君をこんなに苦しめないで普通に愛し合えたのに。 　君を閉じ込めるか突き放すかしかできないなんて。感情が重すぎてゼロか百かでしかぶつかれない。分散されない感情は君に全部そのまま向けられる。 「先生、そんなに泣かないでください。勝手に俺を遠くへやらないで」 　出雲にそう言われて初めて自分が泣いていることに気がついた。 　物心ついて今まで、涙を流した経験がない。ああ、君はこんなことまで僕に与えるのか。 　本当に、本当に、自分の今まで生きた三十一年間というのはなんだったのだろう。 　それなりに楽しんで生きていた。 　特に苦労をした記憶もない。学ぶことは好きなので自分について、心理学について学ぶのも苦ではなかった。好きなお酒を飲んでゆっくりと時間を過ごしてそれだけで十分だった。