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■君には話せない
「講演会」
「で、少しでいいから喋ってほしいんだよね」
「来月の講演会のテーマってSNSのリスクとかの話をやるんでしたよね?確か講師も呼んで」
「そー。で、それ関連で性犯罪の話も少しね」
「あ、それで僕が…」
「そー。私とかが軽く話しても良かったんだけど、秋山先生のほうが説得力ある話ができるでしょう」
「教頭先生はご存知なんですね」
「一応ね」
少し、眩暈がした。
もう13年も前の話、俺が中学生の時の話。
「まあ思い出したくもなければ知られたくもない話だと思うから、これは断ってもらっていい話」
ふっくらとした体の後ろで手を組んで、丸眼鏡の教頭は黙ってこちらの返事を待っている。
穏やかで、優しそうで、汚い物など触れたことなさそうな人。こんな人でも知ってるんだ。俺がかつて、男に抱かれていたこと。ひと月も毎日、好き勝手にされていたこと。
同じ男としてどう思っているんだろう。
気持ち悪いと思いながら、そんな素振りは見せず接してきてたんだろうか。俺のことを知ってて何も言わない人が、周りにあと何人いるんだろう。
そんな考えが渦を巻きそうになって、やめた。
「良いですよ。僕が教師を目指した理由の一つは、子どもたちが僕みたいな思いをしないよう力になりたかったから、ですから」
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