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■実感
5月21日水曜日。
3限の理科室へ向かう廊下を中田たちと歩く。
昨日あちこち殴られたのと変な筋肉を使ったのとで正直しんどいけど、誰にも悟られたくない。
傷だらけの顔を家族や友達に驚かれたけど、帰りに酔っ払いに絡まれた、とだけ言った。
大丈夫、誰も男に犯されたなんて思わないでしょ。
ていうか自分自身昨日のことはただの悪い夢だったんじゃないかな、とか思ってる。
今日も部活が終わって、みんなと一緒にまっすぐ家に帰れば、全部夢として流せるんじゃないか。そんな淡い期待を抱いていたところで、現実に引き戻す声が聞こえた。
「おまえら広がって歩くなよ」
「ひぇ〜すんません」
向こうから歩いてくるのは、昨日暗闇で俺を襲った男。緊張して、内臓がせり上がるようで、ああ、夢じゃなかったんだなと実感する。
俯いて、隠れるように中田たちの後ろに下がる。
どうか言わないで、何事もなく過ぎ去ってくれ。
すれ違う時間が尋常じゃなく長く感じる。
先生の体が横を過ぎ、
過ぎようとした瞬間ベルトをぐっと掴んで体を寄せられた。
「約束、忘れてねえだろうな」
────逃げなくては、と思った。
耳元で響いた声が低くて、昨夜のことを思い出させるようで、ああ、俺はこの人のこの一面を知っている、それは紛れもなく現実で、逃げなきゃ、今夜もそれは現実になるんだ。
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