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■裂傷
「せっかく体育倉庫でヤッてんだからさ」
5月22日は木曜日、部活終わり、また体育教官室に来てしまっている。
しかも先生の仕事がまだ終わってないから、語り出しから下品だとわかる先生の話を聞かされている。先生のデスクの二つ隣の椅子に凭れて、犯されるのを黙って待ってる時間、なにこれ。
てか、せっかくってなんだ。
「倉庫にあるもので楽しみてえよなあ。バレーのネットで縛るか」
もう夜なのになんでこの人こんなに元気なの?
こっちは昨日一昨日、肉体的にも精神的にも摩耗しすぎて今にも気を失いそうなのに。
────どうして、俺なんですか
重い瞼に抗いながら、昨日の疑問について考える。先生は結局、答えてくれなかった。
先生と俺の関わりって言ったら、体育の教科担とか、俺が副委員長してる生徒会保安部の担当とか、それくらい。
俺がこの人に何かしたかな。
もしそうなら、こんな仕打ちをする前にストレートに伝えてくれたらいいのに。
「おい寝てんなよガキ」
「う」
先生が投げたものが頭に命中して、かしゃんと軽い音を立てて落ちる。
この人……本当に乱暴。
呆れつつ、床に落ちたそれを拾おうとして絶句する。
ピンクの卵型のプラスチックと、その先に伸びるコードとスイッチ。
拾い上げて、試しにかち、とスイッチを入れると、ピンクの卵が小刻みに振動し出した。かち、かち、かち、とスイッチを押すと、振動のリズムが変わった。
わー、すごーい、4つのモードが選べるんだー。
「んな死んだ目で見るようなもんかよそれは」
「これ誰に使う予定なんですか?」
「わかりきったことを聞くもんじゃねぇぞ」
返事をするのが馬鹿らしくて、椅子を回して背を向けた。キャスターのついた椅子をキコキコ鳴らしながら震える卵を眺める。持ってると結構 手痺れてくるんだな。いらん知識が身についた。
「…先生」
「あ?」
「どうして俺なんですか」
「……おまえ意外とくどいな」
「だってわけも知らず毎日自分から犯されに来るの馬鹿みたいじゃないですか」
「じゃあ顔じゃね」
「親を恨めと」
「そういうこったな」
この人はもう何言っても駄目な気がしてきた。
諦めてまた、かち、かちとピンクの卵のモードを変える。小指の先に当ててみるとじわじわする。
「そういう遊び方じゃねんだけど」
背中から降ってきた声を見上げる。
あなたの真意がわからない。
まさか好きだからなんて、言うわけがないし。
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