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■裂傷
…………なに?つまり
「チンコ切りたいってことですか…?」
「そこまでは言ってねえよ」
「じゃあどういう意味ですか」
「いやおまえが股から血流して苦しんでんの見てみてえなあと思って、カッターあるし」
正面に回り込んだ先生が俺の脚の間にしゃがみ込む。昨日先生のを咥えた俺みたいに。
先生の骨張った指が、膝に触れ、ゆっくり、ぬめりと腿を這い上がってくる。時々、指の腹にぶりっと力を込めたり、爪を立てて掠るようにしたり。
「どこ切るつもりですか…」
「まあ付け根とかじゃね。ピッて。リスカみてえな感じで」
「そんな気安く」
先生の指が、脚の付け根まで到達する。
腿と付け根の境を上へ、下へと擦られてむずむずする。
自身には触れそうで触れない。
「下脱げよ」
先生が見上げた時、あ、今ならこの人の腹を蹴れる、と思った。人を見上げていながらまるで見下ろしているかのように得意げなこの男を黙らせることができる。
いま、俺の脚元にしゃがみ込むこの腹を蹴れば、今度こそあんたから逃げられるだろうか。受験生の、試験前の、大会間近の、貴重な時間をこれ以上無駄な行為に汚されなくて済むだろうか。
ただ、先生の指が、触れそうで触れないところがうずうずして、惑う。
この後されることの恐怖とか、よくわからない期待のような浮つきとか、そんなものを一瞬でも感じた嫌悪とか、入り乱れる。
俺は人を蹴れない。
「なに考えてる?早くしろ」
先生が立ち上がって脛を蹴飛ばした。
弾みで、キャスターがわずかに後退する。
あとは、機会が去ったことにほっとしている自分がいる。
残念なことに。
先生はビデオカメラを持ってきて、促すように顎をしゃくった。
自分のベルトに手を掛ける。
衝動的で、躊躇なく人を攻撃できるこの男を、尊敬こそしないけれど少し、羨ましく思った。
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