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■裂傷
「はは、脚蹴られたら即脱ぐのか。扱いやすくていいなあ秋山」
下着と一緒にズボンを脱いでほうった。
左手のビデオカメラの向こうの顔は大層愉快といった様子、右手に刃物持ってそんな風に笑うのは殺人鬼くらいかと思っていたけど。
カチカチと長めに刃を繰り出し、太腿にその背を滑らせる。先生が愉しそうに上下に往復させるカッターがシャツの裾に当たるたび、ぞっとする。
「邪魔だ、どけろ」
カッターの刃で裾をひたひた叩かれる。
言われて、恥部が見えるか見えないかくらいやや裾をつまんだけれど、ご不満だったようで舌打ちして睨まれた。
「胸まで上げてろよ、ざっくりいかれてえか」
……昨日時点で既にチンコ咥えてるところも犯されてるところも撮られてんだからこんなの平気、なんてこともちろん無くて、撮られてると知らないで撮られるのとこうして間近で撮られるのは違うし、それと同じで唐突に殴られて予測できない痛みを受けるのと、予告されて切りつけられるのを待つのは心持ちが違う。
ざっくりいかれてえわけがないので、そろそろとたくし上げるしかないけど。
「……そんな顔するんだなあ、秋山」
え、と思って顔を上げた時、先生がにやりとした。
「………………ッ!!!!!」
突然、自身に冷たいものが触れて飛び上がりそうになった。先生がげらげら笑う一方で、心臓がばくばくして熱く血が集中しているのか氷のように冷え切っているのかわからない。
「暴れるなよ、まじでチンコなくすぞ」
この人なにがおかしいの。
愉快そうに俺のをカッターの平で叩くこの男に怒りが募るけど、いま動けないから、シャツの裾をへその上で握りしめて肩で呼吸するだけ。口がどんどん渇いていく。
「はは、は、動くなよ」
先生の声が低く冷たくなると、下を向いていた刃が長辺を軸にゆっくりと転回し腿の付け根に向かう。
押し付けられている、
でも緊張して足腰が麻酔のように変に痺れてわからない。
先生がちら、とこちらを見て、ず、と手前に引く。
「……………!!!!!!…!…………!!!!」
大きな痛みではない、けど、
ずっ、と刃を引かれる瞬間体の内側の血だとか細胞だとかがざわっと波立って分裂するような感じがして、気が狂いそう。
なんだか吐きそう、込み上げる感じがして口を塞いだ手がじっとり汗に濡れていた。
シャツの裾がはら、と落ちて傷口を隠す。
裂けたところから滲んだ血が滲み垂れて、腿を伝い白いシャツの裾から覗く。
「はは、ほんとに生理みてえだなあ」
先生は興奮した面持ちで、傷口付近をぐ、と押したり、溢れた血を指で掬ったりして面白がっている。
「…あの、汚れるのでそろそろ、いいですか」
「ああ?」
こちらを睨み上げると、シャツを捲って傷口を舐めた。
「ッ!なにして……!!」
それはちょっと衛生的に無理、股に埋める顔を押し返すと、先生の舌や唇に付いた血が目に入る。
うわ、ほんとに、
と、先生が立ち上がって俺の頭を掴んで引き寄せた。血に汚れた口にキスされて、捻じ込まれた舌は錆びた味がする。
「……っん、む、…………ふぁ、あッ」
くちゅくちゅと音立てたり、腰寄せて撫でたり、わざとやって楽しんでんのか。
腰が触れ合うとき先生のが当たる。
人の体切りつけて血舐めて勃つって、どういう趣味してんの。
唇が離れて、先生に見下ろされる。
お互い興奮して息が上がってしまって、言葉が出てこない。
「…これ」
口角を指でなぞられる。
ああ、先生もそうだから、俺も口に血がついてるって言いたいんだろう。
「あ……」
「綺麗だ」
「え?」
「あ?んだよ」
「、いえ……」
なんだか落ち着かなくて、急いで手の甲で自分の口を擦った。と、その手首を掴まれて背に回され、体を壁に捻じ伏せられた。
鎖骨から首筋まで先生の厚い舌が這い上がり、ぐちゅぐちゅと耳を犯す。
「秋山、今日立ちバックでしたい」
濡れた耳にぼわりと掛かるぬるい息と低い声に、腰が痺れて、つい頷いた。
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