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■表面張力

5月23日、金曜3限の体育は結構好きな時間だった。あの体育教師とあんなことになるまでは。 今は授業開始前、校庭に集まった群れのなか、あの男に見つかりたくないので後ろのほうで気配を消そうと試み中。 まあ、無理だろうな。 前回から体育の時間はサッカーをやり始めたから、サッカー部の俺はお手本に前に出てとか、グループに分かれて練習する時みんなを見てやってとか、何かと声を掛けられるんだろうから。 「眉間にしわ寄ってるけど」 腕組んで件の男を睨んでいたら話しかけてきたのは長谷(はせ)、同じクラスでサッカー部で、友達。中田とか長谷とか、いつも一緒にいるメンバー。 「ね、俺って綺麗?」 「口裂け女みたいな質問するね?」 昨日、先生が俺にこぼした言葉。 なんか気になって、聞いてみた。 長谷は、んー、と少し考えて、それから俺の顔を見つめた。 「まあ、顔の造りは綺麗でしょ。でも綺麗とかよりカッコイイとか、甘いマスクとか、ジャ○ーズにいそうとか、そういうのが先に出てくるかな」 「えっすごい褒めてくれる、ありがとう??」 「てか普通にモテるじゃん。この前も修学旅行でこの辺来てたJKに可愛がられてスイーツ奢られてたじゃん」 「あれは道聞かれたから そのお礼でしょ?大袈裟だなとは思ったけど」 「一緒にいた俺らが『あ、おまえらも着いてくるんだ』みたいな冷めた目で見られたからお礼だけじゃないと思うよ」 「そうだったの?」 「んー、あと綺麗って言えば、目が綺麗だよ。信治ってお母さんがアイルランド人のハーフだったよね、緑の目は珍しいし綺麗」 「あはは、もういいよー、近いよ長谷」 あんまり褒められるから恥ずかしくなって、顔を覗き込んでくる長谷を制した。 ああほんとに、今まで通りこういう日常だけだったら、どれだけ良かったかな。ここ数日は放課後のことを考えると胃が痛い。 「おい、そろそろ並べよ」 先生の声に、群れがわらわら動き始めた。人波の向こうで目が合った気がした。こっちを睨んでた気がしたんだけど、なに? 号令が掛かって、挨拶をして、準備体操をする。 その間もずっと見られている感じがして落ち着かない。同じ空間で過ごす時間、会話しないといけない時間、誰かに何か悟られないかと不安になる。 ていうか、本当にこのままこの人の言いなりでいるしかないのかな。 昨日はあのまま壁に押さえつけられて、後ろからされるがままだった。 それから────気持ちいいと思ってしまったのが、嫌だった。直接扱かれたなら誰相手でも感じるのはしょうがないけど、挿れられて感じてしまうのはあの人のものにされてしまうようで嫌だった。あの生理ごっことか、チンコ切り落とされそうになったのとか、綺麗だと言われたのとか、あの人の女にされていってるようで嫌だった。 「じゃあ今日はウォーミングアップとしてパス練から、この前と同じグループに分かれて」 みんなの前では普通な顔をしている先生が嫌だ。 「サッカー部、ボール取りに来て各グループに入って」 子どもを犯して遊んでるくせに、教師ぶっているこの男が嫌だ。 「おい、秋山」 偉そうに指図されたくない。 「信治?行かないの?」 この男の、言いなりになりたくない。 「山下先生に指図されてサッカーしたくありません。」

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