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■長谷くんの話(1)

長谷竜太郎(はせりゅうたろう)、中3の5月末、それは確か金曜3限の体育の時だったと思う。 校庭に集まった俺たちは先生が来るまで適当に、前の晩やってたドラマがどうとか、女子のなかで誰が胸がデカいとか、まあ、いちいち覚えてもいないようなくだらない話をしていた。 で、そんな話聞こえてないみたいに隣で信治が機嫌悪そうにしてるのはどういうわけかな。いつもにこにこして輪の中心にいるのに、腕組んでなにか睨みつけてるみたいな、珍しい。 「眉間にしわ寄ってるけど」 聞いてるのか聞いてないのか信治は、んー、という生返事だけして下唇をへの字に曲げた。 ムスッとしててもやっぱ横顔綺麗だよなあ、 あー、好きだな。 「ね、俺って綺麗?」 「口裂け女みたいな質問するね?」 そんなことぼんやり思ってた矢先のこの質問だったからドキッとした。そういう目で見てたのがバレたかと焦って変な質問に変な返ししちゃったし。 いや、落ち着け、バレるとかそうそうないでしょ。 好きっつったっていいなって思ってるくらいでどうにかなりたいわけじゃないし。3年間同じクラスで、同じ部活で、こんな何でも完璧にこなせて笑顔が可愛いやついたら、そりゃ気になるだろ、それくらいのもの。 ここは変に誤魔化すと余計ややこしくなりそうだから、あえて素直に言ってやる。 「まあ、顔の造りは綺麗でしょ。でも綺麗とかよりカッコイイとか、甘いマスクとか、ジャ○ーズにいそうとか、そういうのが先に出てくるかな」 「えっすごい褒めてくれる、ありがとう??」 「てか普通にモテるじゃん。この前も修学旅行でこの辺来てたJKに可愛がられてスイーツ奢られてたじゃん」 「あれは道聞かれたから そのお礼でしょ?大袈裟だなとは思ったけど」 「一緒にいた俺らが『あ、おまえらも着いてくるんだ』みたいな冷めた目で見られたからお礼だけじゃないと思うよ」 「そうだったの?」 「んー、あと綺麗って言えば、目が綺麗だよ。信治ってお母さんがアイルランド人のハーフだったよね、緑の目は珍しいし綺麗」 「あはは、もういいよー、近いよ長谷」 母親譲りらしいエメラルドの目を覗き込むと、照れたように手で制された。 クソ可愛いな。 「おい、そろそろ並べよ」 教科担の山下の声で、駄弁ってた塊が列になる。 残念、まあ良いけど。 てか結局なんの質問? 「じゃあ今日はウォーミングアップとしてパス練から、この前と同じグループに分かれて。サッカー部、ボール取りに来て各グループに入って」 準備運動が終わって授業に入る。 今日の体育はサッカーだから、俺らサッカー部は前に出てきて手本見せてーとかグループの面倒見てーとか言われるんだろうな。それがまぁだりい。まぁやるけども。 「おい、秋山」 山下の声に、え?と思って振り返った。 信治は一歩も動かないで、静かに挑むような目をしていた。 友達の、見たことない表情に緊張が走る。 「信治?行かないの?」 困惑するこっちには目もくれず、信治は山下だけを捉えて言った。 「山下先生に指図されてサッカーしたくありません。」

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