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■親友

「よっ、元気?」 部室へ向かう道中、親友のリクに後ろから肩を叩かれた。 高瀬陸人(たかせりくと)、俺が副キャプテンをしてるサッカー部のキャプテンでダブルエース、お互いを「親友でライバルで仲間」って認め合ってる、いちばん信頼してるやつ。 「なにそれ。元気だよ?」 「いや噂になってたから。信治が山下にキレたって。反抗期?」 3限の体育の時のことを言ってるのだろう。 結局ただ悪目立ちして返り討ちに遭っただけで、ほんと自分でも勢いで馬鹿なことしてしまったなと反省する。今の自分、冷静じゃない。 「キレてないし〜…てか1組まで噂になってんの?」 「信治が急に反抗的になればそりゃ噂になるでしょ」 「やだよ恥ずかしい、みんな早く忘れてよ」 「まあすぐ忘れるだろうけどさー…、信治、ほんとに最近大丈夫?」 「なに?」 リクの声色が真剣になった。 これはさすがに、怪しまれてるよな。 「それだよ怪我。水曜日に顔にべたべたガーゼ貼ってきたじゃん。まだ傷残ってるし」 「あー、言ったでしょ?酔っ払いに絡まれたんだって」 「んー……、まあそういうことにしといてやってもいいけど、誰かになんかされてるとかならマジで言えよな、俺が」 後半、信じられないくらい声が低くなったと思って隣を見ると、犯人見つけ次第殴り掛かるんじゃないかという顔をしててギョッとした。 「顔怖い怖い怖い殺すの!?」 「殺すよ」 「殺すな」 とりあえず親友が手を汚さないように落ち着かせよう。校庭の隅で立ち止まり、リクの頬を両手で挟んでたてたて、よこよこと解してやる。 後ろからやってきた長谷に「なにしてんの?」と笑われた。 「リクがうっかり人を殺めないように宥めてる」 「ええ…?」 長谷は首を傾げて先に行ってしまった。 黙ってほっぺたをふにふにされるリクの顔は幾分落ち着いてきたように見える。 「……リクってたまに攻撃的になるよねー、うっかり人殴って未来をふいにしてしまうとかやめてよねー」 リクは俺と同じで、府内随一のサッカー名門校である秀栄館学園からスカウトが来ている。一緒にプロ目指そうねって言ってる仲間の未来が、俺のために誰かを殴ることで消えてしまうとか、そんなのはまっぴらだ。 「それ言うなら信治だよ。くだらないことに邪魔されて未来手放さないでよ」 「……うん、ごめん」 リクの顔がちょっと落ち込んで見えて、つい謝ってしまった。 その『ごめん』が、俺はもうリクと同じ未来には行けないよ、と言っているみたいになってしまったなと思って、振り切るように首を振って笑った。 「行こ?リク」 「うん」 リクには頼れない。 誰にだって知られたくないけれど、誰よりもリクには知られたくない。 俺はリクと対等でいたいんだ。

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