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第2話 帝王の護衛

黒の護衛となり一週間が経過した。護衛という立場になり個室を用意された。一般組員は相部屋が殆どで不自由な生活をしている。ベッドも一人で寝るには申し分ない広さで、夜はぐっすりと眠れる。ただ一つ難点なのはすぐ隣が黒の部屋であるということだ。護衛なのだからすぐそばに居るのは当たり前のことだろうが、落ち着かない。 黒の部屋と俺の部屋は中から行き来出来る扉が付いている。もちろんこの一週間でその扉を使って部屋に行ったことはない。何故ならこの一週間の内6日は黒の部屋のベッドで眠らされたからだ。8日目の今も黒のベッドに居る。 目を覚まして隣にいる黒を確認するが居なかった。朝が早い黒は俺より早く起きて珈琲を淹れてくれる。首領にそんな事させてると思うと後が怖い気もするが淹れてくれるものは有難く頂戴している。 重い目をこすりベッドを降りる。リビングへ向かうと黒が優雅に朝食を食べていた。この光景も8日目になると慣れた。 「おはようございます」 「遅い、もっと早く起きる習慣をつけろ」 「あんたが早いんだろ」 こんな風に悪態を吐くやりとりも、当たり前のようになっている。不思議な事な黒は俺の言葉遣いを咎めることはない。 黒は三、四時間しか眠らない。それに朝が早く、夜寝るのが遅い。それで一日中働いている。 「護衛ならばこちらの生活に合わせろ。ここは貴様の家じゃない」 「わかった。明日からあんたと同じ時間に起きる」 「ふざけるな。私より早く起きて、起こせ」 無茶を言われても出来ないこともある。俺はもともと8時間睡眠を欠かさずにしてきた。それを半分以下に減らせとはあまりに酷だとは考えないのだろうか。いや、考えていたらそんな発言出来るわけがない。 「それは約束できない」 「…下らんな。私はやる気の問題を言ってるんだ。本気で護衛をやれ」 「本気は出してるだろ」 「ならば何故、一昨日自分の部屋で眠った」 割り当てられた部屋で寝て何が悪い。それにたった2日、自分の部屋で寝ただけでやる気ないと言われたくない。 「あんたの邪魔しちゃ悪いと思ったからだ」 「何の事を言っている」 「あんたが部屋に部下を呼んだだろう」 「報告に来させただけだ。すぐに帰らせた」 なんだてっきりその部下とやる事やってるのかと思った。俺に手を出さないのは色気がないからだろうと思う。その方がありがたい。あの時は薬であんなに乱れたが元々男と経験などしてこなかったから、しないに越したことはない。 「そうだったのか…」 「何を勝手に勘違いしていたのか知らないが、今後命じない限り勝手に部屋で眠るな」 「わかった」 「‥早く席につけ。飯が冷める」 テーブルには相変わらず豪華な食事が並んでいる。自然と腹が鳴った。 「腹はなかなか素直だな」 「こ、これは別に‥」 「ふん、そういう顔はなかなか可愛げがあるぞ」 そういう顔とはどんな顔なのだろうか。恥ずかしい顔してたのか…それよりも男に可愛いいはおかしい。 「…」 俺はあえて何の返事もせず目の前の食事を食べた。 食後、黒が執務室の机で書類仕事をしているのを側で見ている。俺にはそのくらいしかやることが無い。そんなことを考えていたら書類仕事をしている黒と目が合う。 「この後、お前を家族たちに会わせる」 「え、何故‥」 「お前が俺の護衛であることを知らせておく必要があるからだ」 家族とは組員のことだろう。その組員達に俺を会わせるということは皆に知れ渡るという事だ。黒の護衛であり飼われている情夫(いろ)ということもいずれ知られることになる。 不本意だが、そうすることで手を出させない様にする作戦なのだろう。 「わかった。俺はその場で何か言った方がいいのか?」 「いや、紹介はあくまでもついでに過ぎない」 「俺も参加していいのか‥」 俺は護衛だが元は部外者、そして警察官でもある。簡単に受け入れられるとは思えない。なんらかの歓迎を受けることは覚悟していたつもりだが、今さら怖くなるな。 「あぁ、貴様は私の護衛だ。常に側で職務を果たせ」 「わかった」 黒は書類仕事を済ませると上着に腕を通して執務室を出た。しばらく廊下を歩き、大きな二枚扉を開けて中に入った。部屋にはすでに大勢の組員が整列していた。黒が部屋に入った瞬間空気が張り詰め、皆が姿勢を整えた。 「今後、鷹翼との抗争は免れない。だが我々には支えねばならない家族がいる。そのために負けることはできない。内陸部に領土を広げるより他に家族を守る方法はない‥‥」 黒の言葉は表向きなものだろう。家族を守ると言う大義名分の元で組員の士気を高めるのが狙いなのだろう。 現在、卵型のような島の湾岸沿いの一周を鮫牙(シャークファング)が占領しており、内陸部の広範囲を鷹翼(ファルコンウィング)が占領している。湾岸部へと領地拡大を目論む側と内陸部へと領地拡大を目論む側とで小さな争いは絶えなかった。それが今回大きな抗争へと発展したみたいだ。 淡々と話す黒の言葉を聞き組員達は賞賛する。組員達の強固な絆と首領への忠誠がうかがえる。そんな異様な光景をすぐそばで見ている。 話し終えた黒が視線を向けてきた。 「最後に紹介しておく。私の隣にいる男は護衛だ。10日ほど前から護衛の任に付いている。よく顔を覚えおくように」 そういう黒の言葉に一斉に視線が此方に向けられた。その中に見覚えのある3人の男達がいた。あの日薬で狂った俺を食い散らかした男達だ。思い出すだけで額に嫌な汗が走る。組員全員の総会という事はあの男達も来ているのか‥ 俺の怯えを感じたのか黒が1歩前に出て視界を遮った。なぜ庇うような事をするのかわからない。

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