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第3話 抗争の前夜
ベッドに横たわりながら、黒が一人でウイスキーを飲んでいるのを眺めている。一人で晩酌なんて寂しくないのだろうか。そもそも寂しいと思うことがあるのだろうか。
何故こんなにこの男の事が気になるのかわからないが、あまりにも静かな夜だったせいで余計なことを考えてしまった。
この組織に属してから黒の残酷な一面を垣間見るのは少なかった。本当にこの男が破壊の帝王と呼ばれる男なのだろうかと疑ってしまうほどだ。
風呂場で燈の事を聞いた時の反応から人を陥れたり弄ぶことは日常茶飯事である事はわかった。燈が執務室に何度か呼び出されているところを目撃したし、その時に情事をしていたとも考えられる。黒はただ『報告させただけだ』と言っていたが本当のところは当人同士にしかわからない。
ここに来て男共に犯されて以来、俺は欲望を吐き出していない。一人で始末するにしても常にそばには黒がいる。トイレに行くといえば『好きにしろ』と言うだろうが、遅くなれば様子を見に来る。いくら淡白でもいつまでも自慰できない環境は体に悪い。
性欲を晴らすことが出来ていないから、先ほどの口移し程度でいちいち大袈裟に反応してしまうのかもしれない。
久しく誰ともキスなどしていなかった俺には先程の行為は体を熱くするには十分すぎる行為だった。
「っ…」
黒に背を向けて寝返りを打つ。体が熱くなっている事を知られたくはない。素直な自分の体に苛立ちを感じながら無理やり目を閉じた。
しかし一向に睡魔が襲ってこない。眠れずに悶々としていると黒がベッドに入ってきた。隣に存在を感じるだけで、おかしいほどに下腹部が腫れ上がる。俺は黒に欲情しているのか?そんな疑問が浮かぶ。
悟られれば鼻で笑われて終わりなのは想像しなくてもわかる。だから何としても知られるわけにはいかない。なるべく身動ぎをせずに眠くなるのを待った。
「周、明日は6時に起きろ‥」
「え?」
「鷹翼との交渉は昼からになる」
言うだけ言って黒は黙った。名前を呼ばれたのは初めてで、少し驚いた。
明日の交渉とは名ばかりで始めから鷹翼とやり合うつもりなのだろう。それ以上何も言ってこないので追及はしなかったが、明日になれば正解がわかる。今は明日のことより、目の前の事態をどうにかする必要がある。
「おやすみ。俺トイレ行ってから寝る」
そう言ったが返事は返ってこなかった。相変わらず寝るのが早い。今の俺には羨ましい事この上ない。悶々としているのが自分だけだと思うと屈辱的だ。
静かにベッドから出てトイレに向かう。普段から何処へ行くにも黒に報告する必要がある。黒は結構神経質で少しの物音でもすぐに起きてしまう。
以前夜中にトイレに向かう物音で起きてしまい物凄く不機嫌だった事があった。それ以来どこか行くたびに一言伝えてからにしている。
トイレに入り、起きていない事を確認して扉を閉めた。用を足した後、本来の目的である自慰を始めるために熱く屹立したものを握る。
「う…っん、あ‥」
久しぶりの快楽に思わず声が出てしまう。壁を隔てた隣で寝ている黒にばれたくはない。なるべく声を抑える努力をするが正直自信はない。
手を早めて刺激を続けながら、空いた手をバスローブの合わせに差し込む。まだ柔らかさを保っている乳首を指で弾く。以前まで自慰する時に乳首など触れた事は無かった。ここに攫われた時に与えられた快楽ですっかり感じる部位になった。恥ずかしげもなく一人なのをいいことに行為に没頭する。
「何をしている」
背後から黒の声が聞こえた。寝ているはずの男の声がして恐る恐る顔を向けるとやはり本人だった。
「こ、これは…」
「続けろ‥」
「あ、いや‥でも」
「聞こえなかったか。続けろと命令したんだ」
舐め回すような視線を向けられ、かかる息だけで俺には充分すぎる刺激だ。耳元で囁くように発せられた言葉に、無意識に手が動き始める。まるで自らが黒に犯されるのを待ちわびていたかのようだ。そんなはずはないと考えながらも見つめられていると思えば思うほど絶頂へと駆け上がっていく。
やらしい水音と自分の喘ぎがこだまするように鼓膜を犯す。一番見られたくない相手に痴態を晒していると思うと何故か、ゾクゾクと全身が総毛立った。
「っふ‥あ‥」
体がビクビクと痙攣し、立っているのもやっとになる。いよいよ吐き出せると思った瞬間――腫れ上がった塊の根元を紐で縛られた。
「な、やめ‥」
「何故こんな所でしている」
「こ、これは‥あんたが‥」
絶頂を迎える寸前のところで止められて、頭がおかしくなりそうだ。投げかけられる質問に答えている余裕はない。
「私が何をした。まだキスの感触でも残っているのか」
「ちが…そんなんじゃ‥」
「ここはそんな事をする場所ではないだろう」
髪を掴まれて無理やり首を刎ねられる。口角を上げて、まじまじとこちらを見ている目と目が合う。完全に嘲笑われている。悔しくて涙が出そうだ。
生殺し状態のままにされるのは我慢ならない。自分で紐を外そうと試みる。
「触るな。勝手に触れる事は許さない」
「だったらもう‥離して‥」
「きちんと自慰をしていた理由を言えたら外してやる」
意地悪な男だ。辱めを受けてこちらがどんな思いをするか、わかっていて言わせようとしてくる。このまま押し黙っていては終わらない。生唾を飲んで覚悟を決めた。
「キスが…久しぶりだった。それに常に一緒にいて性欲を吐き出すことが出来なかったんだ…」
「あの程度キスとは言わんだろ」
「…仕方ないだろう。体が熱くなったんだから!」
恥ずかしさのあまり少し大声になってしまった。怖くなり黒の反応を伺う。何かを考えているようだ。
あの程度キスとは言わないと言われたらそうなのだろう。だが黒としたことに性的に興奮してしまったのは事実だ。
「解いてほしいか」
「…解いてほしい‥」
懇願するように見つめ、恥ずかしげもなく強請るように言うと黒の手が伸びてきた。紐を外されると高ぶりを握りこまれる。
「っあ!‥ん、ぅ‥」
上下に擦られ熱が沸き、立っていられなくなり黒に寄りかかる。すぐに先走りがにじみ出て、それを詰るよう親指の腹が鈴口を割ると敏感な尿口を摩擦した。
「はぁ‥う‥あ‥も、あ!」
「達したければ懇願しろ‥」
「も‥イ、あ‥イかせて‥くださ‥」
自分の今出来る精一杯の懇願をする。視界が歪み頬に雫が伝う。目の前の快楽に縋り付くような行為に俺の頭はもう理性などとっくになくなっていた。
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