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第3話 抗争の前夜

トイレで自慰を手伝われて、黒の手の中で達してしまった。ものすごい屈辱だ。そのままベッドまで担がれて、そっと降ろされる。何をされるのかは考えなくても分かった。普段は鋭く威圧を含む黒の瞳が熱情をはらんでいる。 「できるな」 「な、なにを‥」 「情夫として役割を果たせ」 黒の遠回しの言い方に何をさせられるのかすぐにわかった。ベッドの上で仰向けに寝そべった黒の股の間に埋まる。目の前のバスローブをかき分けて、下着の上から肉棒をぐっと押した。 「あんたのここは‥俺じゃ反応しないんだ」 「相手には困ってないからな」 「やっぱりあんたって好きとか嫌いとか関係なくやるんだな‥」 「ただの性欲処理にそんなもの必要ないだろう」 黒の言う事は最もだ。俺は娼夫と変わらない。こんな関係性に愛や恋という感情は必要ない。性欲を処理するだけして終わり。そう考えると何だが虚しくなる。この男にいいようにされている自分が情けない。 「あんた誰かを好きになった事ないのか」 「そんなものが何になる。不利益しか生まないだろう」 この男にとってセックスも交渉や利益を生むだけの手段でしかない。俺もただの愛玩動物の1つなのだろう。だとしても今夜の相手は俺だけだ。情夫として役に立てばいいだけ。 覚悟を決めて下着から肉棒を取り出す。思っていたより大きい。 まだ勃ってもないのにすごい質量だ。 この塊を咥え込んでいた男が他にもいると思うと憎悪する。柔らかなそれを手で包み込んで、上下に動かす。何度か繰り返していると深く息を吐き腹筋が収縮したのがわかった。少しは気持ちいいと思っているのだろうか。ほとんど反応が変わらないため、判断が難しい。 「黒‥どう」 「なにがだ」 「何がって、今してるだろう」 「そんな生ぬるい手技でどうなる」 馬鹿にするように鼻で笑われた。目の前のものを引きちぎってやりたいくらいイラついたが、それよりも今は目の前の男に快楽を感じさせたいという思いが優っている。 生ぬるいと言われないように激しく手を動かす。手の中で硬さを帯び始めた肉棒がビクリと波打った。初めて示した反応に嬉しくなり、トイレでされたことをやり返す。親指の腹で鈴口を割り、尿口を摩擦する。 「っ‥」 黒の息遣いが僅かに変わったのを聞き逃さなかった。溢れ始めた精液を指で掬うようにして全面にまぶしていく。滑りの良くなった裏筋を撫でる。 「咥えろ。全て飲み込め」 完全勃起し一回り大きくなった肉棒を口にゆっくりと収めていく。初めてとはいえ、どうすれば良いのか位はあの夜無理やり経験させられた。自ら招き入れたのは初めてだ。 咥えた高ぶりに歯を立てないよう吸いあげ、喉奥まで咥え込むと舌を動かして筋に刺激を与える。 「ん‥んん…」 不思議と咥えながら腰が動く。何を期待して動いているのか今の俺には理解できなかった。ただ卑猥な水音と自分の喘ぎ声、黒の息遣いを感じて自分の塊も硬度を増しているのがわかった。 頭を上下に動かしながら抜き差しする速度を上げていく。しばらく続けていたら、ビクビクと口内で高ぶりが波打った。そろそろ絶頂が近いことを悟った俺は陰嚢に触れる。そこは熱く重たくなっている。 「んん‥っふ‥」 強弱のリズムをつけながら吸うと口内で弾けた。 「っん…ん、はぁ‥」 口内から溢れんばかりに出された精液を少しずつ嚥下していく。男臭さと独特の苦味を感じながらも、半ばやけくそで口内を空にした。 「黒‥よかったか?」 「貴様はなぜそんなに反応が気になるんだ」 「やるからには、気持ち良くなってほしいから」 気持ち良いという言葉はなかったが、代わりにキスが落とされた。不意なことに驚く。 「い、いきなり‥」 「聞いてからの方がいいのか」 「あんたがキスなんて‥ありえない」 「私のキスは安くはないぞ。滅多にしてやらんからな」 口元を緩めた黒の顔を見つめた。滅多にしないキスをされた事が嬉しい。燈や他の人にはキスをしないんだろうか。特別だと自惚れて良いのだろうか。 「キスはしないのにそれ以外はするのか‥」 「肉体関係とそれとは別だ」 「燈にはしたことあるのか?」 そういうと黒は今度は額にキスを落としてきた。性欲処理に愛など必要ないと言っていた男がすることとは思えない。先程までの言動との差に動揺する。 「そんなに燈が気になるか」 「燈の事なんてどうでもいい‥」 「訳のわからないやつだ」 不思議そうに見つめられる。真意を探っている様だ。燈に好意などこれっぽっちもない。話したことも殆どないし、好きになりようがない。黒の見透かされる様な瞳をしっかりと見つめ返す。 「滅多にしないと言っただろう」 「じゃあ燈とはしてないって思っていいんだな」 「好きに解釈しろ」 そのまま遮られるように背中を向けられてしまった。これ以上話すつもりはないみたいだ。仕方がなく布団に身を埋めた。最後までされるかと思っていたが、意外にも前戯のみだった。明日の交渉で間違いなく撃ち合いになる。それを見越して、負担にならない様に手を抜かれていたのかもしれない。 人を翻弄し嘲り、蔑む黒から優しさを感じた夜だった。

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