14 / 76

第4話 帝王の盤上

黒が鷹翼との交渉の場に用意したのは、鮫牙の得意な海上である豪華客船だ。全面黒塗りの船が港に停泊し、鷹翼の首領、レオと組員を乗せて出航した。 鷹翼の首領と鮫牙の首領が雁首揃えている。顔を合わせた瞬間から空気はガラリと変わった。威圧感に思わず押しつぶされそうになるが、怯む訳にはいかない。 「本日はこの様な船にお呼びいただき有難うございます」 「内陸部からわざわざお越しいただき光栄だ」 皮肉を添えた挨拶に俺の背筋に嫌な汗が伝う。鷹翼の組員は全くもって話し合う気がある様に見えない。眼光が鋭く、今にも懐から銃を出しそうな勢いだ。 「大したもてなしも出来ないが、まずは紹興酒で乾杯をしよう」 「是非…」 レオが少し表情を歪ませた。接待をするつもりなら相手の好みに合わせるものだが、黒はワインではなく敢えて紹興酒を選択した。明らかな嫌がらせだ。 燈が鷹翼一人一人にグラスを渡していく。鷹翼の組員は渋々受け取り苦笑いを浮かべていた。 黒は余裕の表情で乾杯の音頭を取っている。全てが思惑通りに進んで、さぞ気分がいいことだろう。 「黒璃秦、そろそろ本題に入る」 「本題?あぁ、内陸部への規制緩和の件か」 「そうじゃない。分かっているだろ!」 唸る様に低い声で放たれた言葉に俺は思わずホルスターにある銃を握りしめた。レオの怒気を孕んだ表情から怒りの強さが感じ取れる。 「そうか彼のことか。急かさなくてもそこにスタンバイさせている」 黒はせせり笑う様に告げたあと、レオの背後を指した。鷹翼達が一斉にそちらを向く。そこには車椅子に乗る男が居た。酷い怪我をいくつもしている様だ。 「慧、慧!」 レオが慧と呼ばれる男の側へ駆け寄る。家族との再会に安堵したように強く抱きしめていた。レオという男は黒とは違い、愛情を持ち懐が深いように思えた。 「拉致などと勘違いされては困る。こちらはわざわざ保護したというのに‥」 「黒!これのどこが保護だ。この怪我は‥」 「暴れたからだ。少し手荒な真似はした‥だが彼は生きている。それで良いだろう」 不敵に笑う黒に破壊の帝王はやはり健在だと確信した。少しとは言い難い怪我の数々。顔の右半分を包帯で巻かれ四肢全て包帯でグルグル巻き状態だ。明らかに拷問したとしか思えない。 レオが黒をまっすぐに睨む。いくら生きていたからとはいえ、屈辱を与えられたことは変わらない。 こんな仲間を見て怒るのは普通のことだ。俺が同じ立場でも怒る。だがさすがは首領だ。怒りに任せて暴走はしていない。あくまで冷静だ。

ともだちにシェアしよう!