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第4話 帝王の盤上
黒が鷹翼との交渉の場に用意したのは、鮫牙の得意な海上である豪華客船だ。全面黒塗りの船が港に停泊し、鷹翼の首領、レオと組員を乗せて出航した。
鷹翼の首領と鮫牙の首領が雁首揃えている。顔を合わせた瞬間から空気はガラリと変わった。威圧感に思わず押しつぶされそうになるが、怯む訳にはいかない。
「本日はこの様な船にお呼びいただき有難うございます」
「内陸部からわざわざお越しいただき光栄だ」
皮肉を添えた挨拶に俺の背筋に嫌な汗が伝う。鷹翼の組員は全くもって話し合う気がある様に見えない。眼光が鋭く、今にも懐から銃を出しそうな勢いだ。
「大したもてなしも出来ないが、まずは紹興酒で乾杯をしよう」
「是非…」
レオが少し表情を歪ませた。接待をするつもりなら相手の好みに合わせるものだが、黒はワインではなく敢えて紹興酒を選択した。明らかな嫌がらせだ。
燈が鷹翼一人一人にグラスを渡していく。鷹翼の組員は渋々受け取り苦笑いを浮かべていた。
黒は余裕の表情で乾杯の音頭を取っている。全てが思惑通りに進んで、さぞ気分がいいことだろう。
「黒璃秦、そろそろ本題に入る」
「本題?あぁ、内陸部への規制緩和の件か」
「そうじゃない。分かっているだろ!」
唸る様に低い声で放たれた言葉に俺は思わずホルスターにある銃を握りしめた。レオの怒気を孕んだ表情から怒りの強さが感じ取れる。
「そうか彼のことか。急かさなくてもそこにスタンバイさせている」
黒はせせり笑う様に告げたあと、レオの背後を指した。鷹翼達が一斉にそちらを向く。そこには車椅子に乗る男が居た。酷い怪我をいくつもしている様だ。
「慧、慧!」
レオが慧と呼ばれる男の側へ駆け寄る。家族との再会に安堵したように強く抱きしめていた。レオという男は黒とは違い、愛情を持ち懐が深いように思えた。
「拉致などと勘違いされては困る。こちらはわざわざ保護したというのに‥」
「黒!これのどこが保護だ。この怪我は‥」
「暴れたからだ。少し手荒な真似はした‥だが彼は生きている。それで良いだろう」
不敵に笑う黒に破壊の帝王はやはり健在だと確信した。少しとは言い難い怪我の数々。顔の右半分を包帯で巻かれ四肢全て包帯でグルグル巻き状態だ。明らかに拷問したとしか思えない。
レオが黒をまっすぐに睨む。いくら生きていたからとはいえ、屈辱を与えられたことは変わらない。
こんな仲間を見て怒るのは普通のことだ。俺が同じ立場でも怒る。だがさすがは首領だ。怒りに任せて暴走はしていない。あくまで冷静だ。
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