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第4話 帝王の盤上
銃撃戦は圧倒的な戦力の差により、鮫牙が優位となっている。俺は黒の行いを受け入れる事はできず、何故この男を守る必要があるのだろうかと疑心暗鬼な気持ちを抱えたまま護衛の任務を遂行する。
黒は俺の手など借りずとも難なく敵を殲滅している。
「ははっ、この程度か。最大勢力を持つ大陸系マフィアが聞いて呆れる。もっと踊ってみせろ!」
黒は上機嫌で目の前の敵を殺していく。破壊の帝王の降臨だ。敵が打つ弾は当たることなく黒に躱される。力の差は歴然。側にいる俺が援護する必要がまるでない。
「黒!」
激しい怒号を上げて目の前にレオが現れた。憎悪と殺意に囚われ冷静さが失われているようだ。こんな状態では黒に勝つことはできないだろう。
黒がレオの足元に銃弾を撃ち込み威嚇をする。笑い声をあげながら黒がレオを攻めていく――
「燈‥」
黒が二階から敵を殲滅している燈へ無線機で交信した。名前を呼ばれただけで燈は何をすべきなのか悟ったように、グレネードランチャーを構え40ミリのグレネードが放たれた。
このままでは船ごと沈むと思った時には目の前にいたはずの黒の姿なくなっていた。燈の居場所を探している間に見失ってしまったようだ。
敵を殲滅しながら黒を探す。対峙していたレオの姿もない。もしかしたら別の場所で戦っているのかもしれない。
船体の客室部へ向かう。中でも銃弾が飛び交っている。上手くかいくぐりながら船尾楼へと進んでいく。その途中で黒の声が聞こえた。
「レオ、この程度か。期待外れだな」
「待て!まだ終わってない‥」
「それだけ銃弾を負っても尚立ち上がるか‥」
物陰に隠れながら様子を伺う。レオの足元には血の海が広がりつつある。それでも銃口は真っ直ぐ黒に向けられている。凄い執念だ。
黒は返り血を幾らか受けてはいるものの、被弾しているようには見えない。どこまでも悪運の強い男だ。
デザートイーグル .50AEが発射した銃弾の三発がレオの左大腿部を喰らい、腹部、そして銃を握るレオの左腕を喰らった。レオは遂に床へ倒れた。
「周、出てこい」
物陰に隠れていたことがバレていたらしい。素直に姿をあらわすと黒はちょうど銃のリロードをしている所だった。一歩ずつ近づく――
「貴様、何をしていた」
「あんたを見失って探していた」
「役立たずが。貴様の役割は何だ」
「首領の護衛だ」
真っ直ぐ黒を見つめた。失態を犯した自覚はある。始末されても文句は言えない。役立たずとレッテルを貼られても仕方がないのだ。それでも俺は護衛であることを忘れてわけではない。だからこうして黒を探した。職務を放棄していたら、とっくに逃げ出している。
「ついてこい、次は見失うな」
「わかった。これからどこへ行くんだ」
「この上にヘリが来る」
黒が天井を指差した。上にはヘリポートがある。沈むとわかっていて用意させていたような口ぶりだ。全て想定内で、思惑通りに事が動いているのだろう。それに翻弄されたのは鷹翼だけではない。鮫牙の組員も又、沈没する船と共に沈むことになるだろう。
仲間を大切に思わない黒だから簡単に家族を切り捨てられる。俺がいつその候補になるかわからない。そんな恐怖をかかえたまま、ヘリポートへと向かった。
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