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第5話 ひとときの休息

眠気が襲ってこない。ベッドに座っていると黒がタバコ吸い始めた。目の前で吸うところは今まで見たことがなく、酒は飲むが煙草はやらない人だと勝手に思っていた。 気持ちを落ち着かせるためか判らないが黒は煙草をふかして、深くため息をついているようにも見えた。 「喫煙者だったのか」 「いや…お前は私が残酷だと思うか」 「そ、そうだな」 喫煙者ではないのにタバコを咥えているのはおそらく仲間への葬いをするためだろう。勝手な俺の解釈だが、時折見せる人間味ある行動に毎回惑わされる。残酷で最低な行為も安易にできる男がすることとは思えない。 だが実際に滅多にしないというキスを俺にしたり、最後まで抱かず前戯まででやめたり、優しい一面を見せた。そんな姿を見れば見る程、黒という男がわからなくなる。 「葬いのためにタバコを吸うのか」 「なぜそう思う」 「吸うところを一度も見たことないし、あんたから一切タバコのにおいがしない。ヘビースモーカーならニコチン切れかなと思うけど、そうじゃないなら葬いくらいしかないだろ」 黒は少しだけ目を見開き此方を見つめてきた。もしかして本当に葬いだったのかもしれない。タバコを灰皿に押し付けた黒は突然俺の上にのしかかった。一瞬のことで避けることは出来なかった。 「は、離せ…」 「じっとしていろ。死にたくはないだろ」 暴れていると強い力で押さえ込まれ、握られた銃をこめかみに突きつけられる。二人しかいないこの状況で助けなどない。死ぬ気で逃げなければ黒からは逃れられないだろう。 生憎、俺にそんな体力は残されていない。気が立っている黒の神経を逆撫でるのは良い判断とは言えない。今は言われた通り、じっとしているしかないだろう。 「抵抗をやめたか。賢明な判断だ」 「何をするつもりだ‥」 「みなまで言わずともわかるだろう。今の私は気が立っている。殺されたくなければ逃げようなどと考えないことだ」 今の黒は冷酷そのものだ。気が立っている男を鎮める術を知らない。だが抵抗だけはしない方がいいのは確かだろう。銃口を首に当てられたまま俺はしっかりと黒を見つめた。 黒の瞳からは何の感情も読み取れない。何を考えているのか判らないまま、俺は黒に抱かれることになるのだろう。 バスローブは剥ぎ取られ、体の芯を握り込まれた。優しい愛撫などとは程遠い行為でも芯は反応を示している。もともと俺と黒の間に愛情などというものはない。情夫として首領の性欲を解消させるだけだ。だが俺はこの男に乱暴な抱かれ方はしたくない。 「っ…」 「どうした。少しは抵抗してみせろ」 「したら殺すと‥っあ…」 「つまらんな」 そう言いながら黒は手を早めて刺激してくる。絶妙な力加減で攻められる行為に理性など簡単になくなってしまう。ただの性欲処理のために行われる行為だと分かっているのに体は素直に反応する。 俺の体はいつの間にこんなに容易く快楽を感じるようになってしまったんだろうか。判らないまま快楽に身を委ねることしかできない。 「っう…やめ…」 「やめろだと…自分の状況を見てみろ。私に押さえつけられて、お前のここは酷く喜んでいる」 「…っあ、や‥」 黒の指が感じる部分を撫で上げ、登りつめた快楽が弾けた。溢れ出た精液が黒の手を汚す。自分の乱れた姿は黒を欲情させるだけの色気はあっただろうか。彼の許しもなしに達してしまった事に少なからず後悔を感じた。 「早いな…」 「怒らないのか?」 「私の許しを無しに達したことを言ってるなら、余計な心配をするな。お前の全てをさらけ出して見せろ」 黒の前で乱れ浅ましく強請り許しを請う。抗争の事を忘れるためにも今夜は身も心も曝け出した方がいいのかもしれない。黒と2人きりならどれだけ淫らな姿を晒しても構わない。殺意さえ感じるほど極悪非道な男に俺は欲情している。 黒の手が這いまわり撫でまわされる感覚に疼くような快感が体を支配する。媚薬のような甘い感覚に頭が回転しない。今は何も考えることが出来ない。 「ッ‥あ‥う‥」 「何も考えず、与えられる感覚に身を委ねろ」 黒に耳元で囁かれるだけで俺には十分すぎる刺激だ。何度も体がびくびくと痙攣し、次なる絶頂に向かって行く。自ら黒に股を開き強請った。 ほかにも抱いてくれと許しを請うた者がいたことは知っている。そんな誰にも負けたくない。張り合う必要はないかもしれないが、不特定多数の者を自らの野望の為に食い散らかしてきた黒の記憶に焼き付けてやりたい。一生離れない情事の記憶を刻み込んでやりたい。 この感覚の正体を自覚した。俺は燈や他の者に対して嫉妬をしているのだ。    

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