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第7話a 家族の帰還
船上での抗争で黒は船内にいくつもの起爆装置を設置し敵味方が入り乱れたままの戦場を爆破した。仲間の生死などお構いなしに船体を吹き飛ばしたのだ。抗争は鮫牙が優勢のまま幕を下ろした。
俺は刺青の影響で暫く熱が出ていたが、今はコテージからヘリでアジトへ帰還して1週間以上が経っている。黒の右腕である燈の生存は確認できたが、それ以外は未だ自力でアジトへ帰還できていない。
ここに来て過ごした時間は短く、仲間と関わりを持つことなかったが多少の心配はしている。黒の護衛として24時間体制でへばりつき、自由な時間など無いに等しい。俺にとって仲間とは名ばかりだ。奇異な目で見られ首領と同等に扱うものもいた。そんな彼等を見捨てたことに胸くそ悪い感覚を抱えたまま、優雅に珈琲を啜る黒の背中を睨む。
コテージで交わしてから体の関係がないのは今の俺にとってはとてもありがたいことだ。あの時の自分は狂っており、独占できる事に喜びを感じていた。アジトに帰ると一気に自分の犯した罪の大きさに押しつぶされそうになった。そして罪悪感を感じれば感じるほど黒を憎く思う。
「私の背中を睨んでいても何も変わらない」
「あんたは仲間を見捨てて、何も感じないのか?」
「死ぬ時は死ぬ。どれだけ足掻いてもその事実が覆ることはない」
黒の言うことは正論だ。人はいつか死ぬ。だからといって信じてついてきた家族を爆発で殺してもいいとは思わない。そんな黒の命を守って死ぬのは御免だ。
忠誠の証を刻んだことに今更ながら後悔している。
「あんたは人を失うことに慣れすぎている。人の痛みがわからないんだ!」
「うるさい。落ち着け‥」
「‥俺はそんなあんたが嫌いだ」
黒は明らかに不機嫌な面持ちでこちらを見た。俺のことを癇癪を起こしているとしか思っていないのだろう。俺と黒の思考は永遠に交わることはなく、平行線のままだ。
彼の過去は何も知らないが、こんな風になってしまったのには何か原因があるに違いない。論破されるとわかっていても、黒に当たらずにはいられなかった。
俺の怒りは黒に対するものだけでは無い。自分に対する怒りが大半を占めている。秩序を重んじ法を守り生きてきたはずなのに、自らも仲間を見捨ててしまった。クローゼットに隠れて妹が攫われるのを見ていた少年時代と何も変わっていない。
黒にいくら言葉をぶつけても軽くあしらわれて終わってしまう。俺の言葉は黒の心には届かないのだろうか。
「今日は午後から船に向かう」
「え?それって…」
「家族の安否を確認するためだ」
黒の思いがけない言葉に、最もらしい理由を付けているのではと余計な勘ぐりをしてしまう。冷酷で仲間の死に何も感じていないと思っていたが、もしかしたら多少は自分の行いを悔いているのかもしれない。そんな風に感じた。
「なんで‥どうでもいいんじゃ…」
「はぁ‥お前はどうして欲しいんだ。先程までの怒りは嘘だったのか」
「嘘じゃない。だから驚いてるんだ。あんたが俺の言うことを聞くなんて…」
自分の野望のためならどんな犠牲も厭わない。人の言うことに左右されることもないと思っていたのに、俺の言うことを受け入れたというのか?
黒の方がまだわからなくなった。何を考えているんだろう…
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