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第7話 家族の帰還
酒を飲み盛大に酔っ払った俺は気がつくといつもの寝室に居た。そばに黒の姿はなくシャワーの音だけが聞こえる。
俺はかなり乱れた服装をしている。シャツをはだけさせノーネクタイでパンツ一枚のままベッドに収まっている。何杯か酒を飲んだことは覚えているがそれ以降の記憶がない。どうやって部屋に帰ったんだろう――
「起きたか」
「あぁ…ここまで運んでくれたのか」
「お前は今後、人前で酒を飲むな」
「え、何かした…」
何かをしでかして黒に迷惑をかけたのかもしれない。悪態をついたか組員の誰かに何か言ったか、色々思い浮かぶが真実がどれかわからない。誰かに手をあげることはないとは思うが、最悪誰かを殴ったりしたかもしれない。
「酒を飲み干したお前は所構わず私を押し倒そうとした。周りの客人含めて皆に目撃されている。拒めば声を上げて泣き、キスをねだる始末‥‥最低だな‥」
「ごめん。みんなの前でしてないよね」
酷いなんてもんじゃない。首領の面目丸潰れさせるところだった。いい歳した大人がみっともなく泣きわめきキスをねだるなど、黒の言う通り最低だ。死んでしまいたいくらい恥ずかしい。
「頼まれてもするつもりはない。煩いから気絶させてここまで運んだ」
「…俺ほんとに最低だな。そんなに酒癖悪くなかった筈なのに…」
「酒の飲み方がわるい。料理も口にせず、やけ酒をすれば悪酔いするだろ」
黒に何回も謝罪をして、やっと許してもらえた。危うく宴を台無しにする所だった。今回の主役は俺ではないのに、変な目立ち方をしてしまったと後悔した。
今までキス魔になったことも強請った事もなかったはずなのに、所構わず盛りのついた犬のように黒を誘惑したのなら、俺はどこか完全にネジが飛んでしまっているのかもしれない。
一度体を交えた影響で黒の毒牙に侵されているとしたら、俺はこの毒を制する術を知らない。浅ましく強請り、求める日が来るかもしれないと思うと恐怖すら覚える。そんな甘く痺れる毒だ。
酔いがさめて入浴を済ませベッドに潜った。ベッドに腰掛けたまま黒はウイスキーを飲んでいる。俺をここまで運んできたせいで飲み足りていない様子だ。
散々酔いつぶれたので俺は一緒に酒を飲んであげるわけにはいかず、一人酒をしている黒をベッドに横たわったまま見つめている。
「なんだ?」
「いや‥なんか申し訳なくて‥」
「どのことについての謝罪だ」
一人酒させるようなことをしてしまった事に対して謝罪したのだが、他にも謝罪すべきことがあるみたいだ。酔っていたせいで記憶は曖昧だったから、思い当たる節がない。ただ宴会の場で黒を押し倒そうしたのは立派な失態だ。
「あんたの面目を潰したことは、申し訳なく思っている」
「酔っていたという言い訳は私には通用しない。次からは飲み方を考えることだ…」
俺の謝罪で納得してくれたようで、これ以上の追及はなかった。黒の言う事を肝に銘じて護衛として酒は控えるようにしようと思う。
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