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第8話 番犬の報復

会合を済ませた帰り、車を走らせていると突然の爆撃音と共に後部座席のスモークガラスにひびが入った。黒に怪我は無かったが、一歩間違えば死んでいたところだ。 運転席でハンドルを握る俺はパニックに陥り上手く操作が出来ず、一旦路肩へ停車した。 「な、なにごと‥」 「落ち着け。お前が先に出て確認しろ」 「首領、了解だ。」 黒の言うままに俺は外に出て銃片手に辺りを警戒する。爆弾犯はおそらく鷹翼の者だろう。だが確固たる証拠がないことには動きようがない。 間違えて一般人を撃とうものなら名ばかりの警察も動き兼ねない。慎重に敵を確認する。 路上駐車されている車の影に人の気配を感じ、威嚇射撃を行った。地面を弾いた銃弾の音に反応するように敵が顔を出した。 「何者だ。姿を見せろ‥」 「ボスに重傷を負わせた黒璃秦の命は俺が頂く…片桐とボスの(かたき)だ。」 そういって顔を見せたのはレオの側近のアランという男だった。やはり予想した通り、鷹翼の仕業だ。 殺意丸出しの表情でこちらに銃を向けてくる。低く唸るような咆哮に呆気に取られた。 車という障害物があるとはいえ、相手は拳銃の名手だ。一方こちらは黒が側にいる。かなり分が悪い。 アランは確実に俺を追い込んでいく。直接急所を狙う事をせず、徐々に体力を削って簡単には殺さないつもりなのだろう。 此方は自動拳銃で装弾数も多いが向こうは回転式拳銃で装弾数は劣る。だがこちらが劣勢なのは彼の腕がいいからだ。訓練は積んできたものの実践経験は少ない。圧倒的な経験の差が仇となった。このまま守りに徹していてはいずれは負けてしまう。 曲がりなりにも首領の護衛をしている限りは、命をかけて守らねばならない。だが俺ではやはり力及ばない。燈でもいてくれればこの状況を打開できる筈なのに―― 暫く交戦していたが痺れを切らしたように背後の車のドアが開いた。 「頭を下げろ」 黒の声が聞こえ俺は咄嗟に頭を下げた次の瞬間、アランの胸に3発の銃弾が被弾した。先ほどまでと形勢逆転し、こちらが優勢になった。一瞬の出来事に俺は呆然とすることしかできない。 「トランクを開けろ。銃の予備がある」 黒に言われるまま一旦後方へ下がり、トランクを開けると予備というには周到すぎる量の銃があった。沢山の銃の中から手に馴染む物を選び、援護射撃する。護衛とは名ばかりで俺は戦闘能力が圧倒的に低い。 今も黒の足手まといになっている。不甲斐ない思いを抱えながらも俺は弱音を吐く暇もない。黒に守られるような形で後方援護に徹した。 黒はこの状況を楽しむように不敵な笑みを浮かべ一歩も引く気はないようだ。   「貴様はこの程度か…手足を捥がれても足掻いて見せろ」 黒は挑発するように言い放った。アランの執念は異様なものだが黒はそれ以上だ。たとえ足掻いたとしても標的にされれば逃れることはできない。 アランの四肢が血しぶきを上げる。 「ぐ…ぅ…っ…」 アランの手から銃が落ち、下肢から崩れるように倒れた。黒は丸腰で敵う相手ではない。相手がこんな状態でも容赦はしない筈だ。息の根を止めるその瞬間まで彼は決して油断しない。 ボロボロの状態でも怯むことなくアランは殺意を向けている。 死ぬことが初めからわかっていて、それでも気持ちが抑えきれずに報復に来たようだ。 「片桐を…愚弄し薬で狂わせた。お前が死ぬほど憎い…」 アランは真っ直ぐ黒を見つめ、血が流れる腕を床に付き立ち上がろうとする。この男の執念は敵ながら称賛に値する。俺には到底出来ることではない。それだけボスを思い尊敬し大切にしてきたのだろう。そう思うと少しだけ羨ましい気もするが黒相手に尊敬など抱くことは俺にはできない。 「憎ければどうする。ここで死ぬか、向かってくるか」 尚も挑発する黒に俺は奥歯を噛み締めた。阻むものは排除する。それが黒の生き方だ。情けをかけるなんて事をするつもりは微塵もないだろう。 黒は突然銃をホルスターに戻したと思ったら、ナイフを取り出した。 「黒、何をするつもりだ‥」 俺は思わず声を上げた。拷問でもするつもりなのだろうか。黒は俺を一瞥し、ナイフを被弾した部分に突き刺した。惨い行為に目を塞ぎたくなる。  

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