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第10話 情報屋の妹
黒は一週間もしない間に復活して、今は通常通り仕事をしている。俺はまた護衛として側にいるように言われた。だが銃の腕を買われたわけではない。護衛するように命じたのは盾になるくらいの価値があると思われたからかもしれない。
今、以前会った沈恋が来ている。鷹翼のアランからレオの居場所を聞き出せなかった為、黒は沈恋に依頼して潜伏場所を割り出してもらうらしい。
「依頼された件について、結論から言えばまだわかってないわ。ただでさえマフィアって外界から閉鎖されてるから情報が拾いにくいの。鷹翼はそれに加えて独自の情報ルートをもっているから…」
「そうか。急かしたからな。引き続き調べてくれ」
分かり次第すぐに連絡することで話がまとまった。彼女は優秀な情報屋で、鮫牙だけではなく様々な人に情報を売り生計を立てているらしい。元は娼婦だったが今は足を洗い、真っ当に情報屋をしている。しかし彼女もまた麻薬に依存し、生きている。
薬物で精神に破滅をきたす人をみてると、可哀想でならない。自分の無力さを実感する。
「ねぇ、黒。そろそろ欣怡 の命日よ」
「もうそんな季節か…」
欣怡が誰なのか分からないが二人に関わりのある人なのは雰囲気でわかった。黒は懐かしむ様な眼差しで窓の外を眺めている。
「御墓参りにきてくれないかしら」
沈恋の言葉にしばらく沈黙が続いた後、黒は首を縦に振った。沈恋は黒に書類を手渡して、部屋を出て行った。
俺は二人の会話に割って入るわけにもいかず、何も言わないまま側で立っていた。部屋から出て行ったのを見届けて、疑問に思っていることを投げかけた。
「欣怡って誰なんだ」
「貴様には関係ない」
「あんたはいつもそうだ。都合の悪い事は俺には伝えようとしない。俺のことは調べ尽くしたくせに‥」
不貞腐れたようにそう言うと、黒が深いため息をついた後重い口を開いた。
「欣怡は沈恋の妹だ」
「妹とあんたの関係は?」
「婚約者だった‥」
黒の言葉に俺は思わず耳を疑った。極悪非道の帝王にも永遠を誓い合った相手がいたのだ。人並みの恋愛を経験して、必要ないと思うに至ったのには何か理由があるはず。
「どうして亡くなった」
俺の問いかけに黒はそれ以上話したくないと言わんばかりに固く口を閉ざした。黒は謎の多い男だ。だからこそ過去に興味がある。多くを知ったわけではないが、少しでも本人の口から聞くことができた。話していたことに嘘偽りがあるようには見えなかったので、事実なのだろう。
欣怡はどういう女性だったのだろうか。黒に一生を共にする覚悟をさせたのだから、とても魅力的な人のはずだ。
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