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第10話 情報屋の妹
命日の朝、俺は叩き起こされて眠いまま支度をさせられて車に押し込まれた。墓地はアジトからそう遠くはない場所にあった。朝だったこともあり、静かで木々のせせらぎや鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「黒、きてくれたのね」
沈恋が暮石の近くで出迎えてくれた。仕事で会う時の派手さはなく、地味で主張しすぎない装いで印象がいつもと違う。落ち着きのある女性の印象だ。
「黒、こっちに来て」
黒は沈恋につれられて暮石に近づき、跪いた。何か囁いているが少し離れた場所にいるので聞き取ることができない。
俺は黒に促されるままに花を手渡した。黒曰く、欣怡の好きな花らしい。
「今日は来てくれてありがとう。毎年この日はすごく憂鬱な気分になるわ」
「お前の気持ちは理解しているつもりだ」
「私も黒の辛さをわかっているつもりよ」
互いに掛け合う言葉は親しみを感じる。話に入る余地はまるでなく、二人の様子を見ながら周りを警戒する。つい先日鷹翼から襲われたところで、油断はできない。報復しようとするものは一人とは限らない。
黒には敵が多く、常に命を狙われている。隙あらば遠距離から射殺されかねない状態だ。射撃の腕は劣るし身を呈する覚悟もないが、辺りを警戒することくらいは俺にでも務まるだろう。車には燈が控えていて、何かあれば対処してくれるはずだ。
黒が暮石に触れてもう一度何か囁いた後、踵を返して一緒に車へと戻った。表情はいつも通り読み取りにくかった。
彼女は黒にとってこれからの人生も永遠につき纏う重要な存在。永遠を誓い最も愛した女性を忘れることは出来ないだろう――
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