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第11話 気まずい銃の訓練

俺は地下にある練習場に来ている。射撃腕を鍛える訓練をするためだ。黒の言いつけでなければこんな不気味なところに来るつもりはなかった。 訓練を指導するのは燈だ。あからさまに嫌悪を示してくるので、好きにはなれない。 「遅い…」 「アジトの見取り図とか見たことないし、案内されたこともないから迷って‥」 「銃を構えてあの的を狙ってみろ」 俺の返事に反応を示すことなく、命令してくる。黒に言われて仕方なく付き合っているのだろうが、あからさまな態度にイライラしてくる。 態度と口調に腹を立てながら、銃を抜き的を狙って撃つが命中せず。何度か繰り返すが的を射ることができない。警察官として相応に訓練はしてきたはずなのに、ここまで鈍くなっているとは思わなかった。 「下手だな。やる気がないのか?」 「やる気がないならここには来ない」 「そうか。ならば筋が悪いんだな」 燈は一人で頷き納得している。馬鹿にされてるようで気分が悪いが、自分でも思っていた以上に下手くそで驚く。訓練を怠ると人は簡単に忘れてしまう。 警察官の時はマメに練習をして射撃の名手には敵わなかったがそこそこの実力は残していた。今の俺はかなりひどい有り様だ。 「コツとかないのか」 「自転車に乗るのとはわけが違う。一朝一夕にはいかない。だから訓練を怠るな」 「あんたはなんでそんなに筋がいいんだ」 「訓練と実戦経験の積み重ねだ」 燈は堂々とした態度で言った。自信満々なのは俺との経験の差をわかっているからだろう。意図せぬ経緯で黒の護衛になった俺と自ら望んで志願した者とでは心構えがすでに違う。 「どのくらい訓練してるんだ」 「毎日、時間があれば来ている。24時間自由に使えるからな」 燈は組織の上層部に位置し、首領の命令で毎日忙しく動き回っているのに訓練に割ける時間があるとは驚きだ。おそらく睡眠時間を短縮させているのだろう。 「だから俺はお前みたいな奴が首領の護衛なのが気にくわない」 「随分はっきり言うんだな」 「回りくどく言った方が良かったのか」 燈が望んでいなくても全ては首領の匙加減一つ。俺も不本意ながら護衛をしている身だ。決して望んだわけではない。 首領の命令は絶対。どんなことよりも優先させなければならない。それが例えどんな理不尽な事でも私情を挟む事は許されない。 燈から延々と不平不満を聞かされた。やる気がないなら自ら辞退しろと言われたが、断ったとしても黒は首を縦には振らないだろう。俺がどうこうできる事ではない。 「‥お前のせいで‥夜、呼び出されることが無くなった…」 燈がポツリと呟いた言葉が根本的理由なのだろう。俺が首領の情夫になる前はその役割を担っていたから。黒ははっきりとは言わなかったがおそらく二人には肉体関係がある。ようやく憶測が確信に変わった。 この時ばかりは心の底から喜ばしく思えた。燈は悔しさと嫉妬から俺を邪険に扱っていたのだ。不本意ながら拉致されて無理やり護衛にされたが、兼ねてからその座を目指していた燈からしたら憎くてたまらないはず。 「なんだ…」 「お前、今俺を嘲笑ったか?」 「あ、いや…俺を嫌ってたのってそういう理由なのかって納得がいったから」 俺の態度が気に触ったのかかなり不機嫌な様子。このままでは銃口がいつこちらに向けられるわからない。 「そうだ。俺はお前が心底きらいだ。なのに‥首領は護衛の護衛をしろと…」 「え、そんなこと言われたのか」 「あぁ、そうだ。護衛の護衛をするなど聞いたことがない。組織の恥さらしだ」 銃の腕なら燈には完敗だ。だから俺が頼りなくても仕方がない。流石に護衛の護衛は燈を馬鹿にしているとしか思えない。黒の考えそうなことだ。 なんだが先程まで相入れなかったのに、燈が可哀想に思えてきた。長年忠誠を誓いすぐ近くで守り続けてきた座を掻っ攫われ、夜の行為も俺にとられた。 失恋とも取れる燈の態度が少し可愛く思えた瞬間だった。

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