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第12話 正式な儀式
拉致されて黒の護衛になり、散々な目にあってきた。今更ながら黒から正式な入隊の儀式を執り行うと言われた。末端の組員にまで俺の存在を知らせるために行おうとしているのだろう。以前のように襲われないとも限らないので必要な儀式であると自分自身も感じたので了承した。
儀式の内容は聞いてはいないが、当日まで身を清めるなど色々と制約があった。食事も鮫の活動範囲に生息しているもの、魚介類は禁止されている。宗教などは一切関係ない独自の規則のようだ。面倒ではあったが人ごとではないので素直に従った。
通常通り護衛として黒のそばに付き従っているわけだが、俺を守る護衛として燈が側にいる。黒が言っていたように燈が居ると窮屈だ。敵がいないが入念に確認したり、毒味をしたりと完璧だ。燈のように完璧な護衛とは程遠い俺は、未だ組織内での地位は高くない。異物と思われても仕方がない。
銃の訓練も燈が立会いの下で行ってはいるが、思う様に成長しないことで機嫌を悪くしてしまうこともある。勘を取り戻すのにはもう暫く時間がかかりそうで、悪態をつかれながらも耐え抜くしかないと心に決めた。
儀式は厳粛な空気の中で執り行われている。協力者や傘下の組織まで様々な人が参列している。その中には顔見知りである沈恋の姿もあった。
小さい円卓を取り囲むように並んだ者達からの視線を感じながら、ワインの入っているグラスに血を垂らした。手のひらをナイフで縦に切られて痛みはあったが取り乱すほどではなく安堵した。
黒もまたワイングラスに自身の血を垂らす。燈が二つのグラスを入れ替えて互いの手に握らせた。
互いにワインを一気に飲み干し、俺は儀式の際に言わなければならない台詞を口に出した。結構な量の台詞を覚えるのに時間を要したが、なんとか間違わずに言うことができた。間違いでもすれば銃を抜かれて撃たれかねないそんな圧力を感じる重苦しい雰囲気だ。
血と血を互いに飲み合うことで忠誠を誓い、身も心も血の全ても捧げ命をかける証となるらしい。俺自身全てを賭けることはできない。どうしてもやり遂げたいことがあるからだ。
そのために必要なのが黒であり、侵食を許すつもりはない。抗える自信はないが手足を捥がれたとしても、成すべきことの為にどんなことでもしなければならない。
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