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第13話 鷹頭の生存
鷹翼からの報復がいつ起こってもおかしくない状況のまま、通常の業務を行う黒の護衛として相変わらず早起きした朝の事。燈の突然の来室で俺は慌ててベッドから飛び降りた。
「おい、首領は何処にいる?」
「え、あ、風呂に入ってると思う‥」
突然のことでまだ頭が上手く回転していないままベッドの隣にいるはずの黒を探した。曖昧な返答に燈は不機嫌になるが、今起きたばかりの俺が黒の行動を把握はできてない。
シャワーの音が止み、扉が開かれて出てきたのは水も滴る何とやらな状態の黒だった。
「燈、まだ来るには時間が早いぞ」
「おはようございます。失礼だと解っていたのですが、お知らせしたいことがございまして‥」
時間に煩いはずの燈が黒の貴重なシャワータイムに邪魔してまでやって来たのには、何かとんでもないことが起きたからだろう。冷静な黒と慌てたような燈の間に板挟み状態の俺は何だか居心地が悪い。
「何が起こったか、手短に話せ」
「はい、スパイからの情報です。鷹翼のボスが生存しているという情報が入りました」
燈からもたらされた情報が事実である確証は現時点ではないが、聞き流すにはもったいない内容だ。黒の野望の1つである鷹翼の解体がレオの生存により阻まれることになる。そうなれば現在の立場が変化する。
レオを撃つことで鷹翼を弱体化させていたのに、また力を持ち始めると厄介だ。要らぬ争いが増えかねない。
内陸部への侵食を企てる黒とそれを阻もうとするレオが抵抗してきたことで島の均衡が保たれていた。覆される日が来たら、島全体を巻き込み邪悪なものに変わる可能性がある。
差別や殺戮が増え貧困民が増えることで露頭に迷う人が増えるに違いない。治安は今以上に悪くなるだろう。そうなってからでは収拾がつかない。
俺は心の中で鷹翼が勝利することを願っている。レオが島を統治すれば海岸沿いに住む貧困層が減り、無益な争いは起こらないはずだから。そんな思いを抱えたまま、俺は抗えずにいる。
燈の更なる調べでレオの生存が確信へと変わった。今はレオの潜伏場所を割り出している段階だ。全身に被弾して尚生き延びる生命力の強さは敵ながら賞賛に値する。
おそらく療養のために病院へ入院しているだろうが、裏のネットワークを使って黒は居所を掴むだろう。狙った敵が消えるまで逃すことはない。
そんな黒は優雅に紅茶を飲んで外国新聞に目を通している。世界の情勢を把握するのも重要な仕事の一つである。
「なぁ、黒」
「なんだ?」
新聞を閉じこちらに視線をよこした黒に疑問を投げかけた。愚問とも取れる内容だがどうしても聞かざる得なかった。
「レオを排除するのか?」
「ふん、くだらんことを聞くな。見逃してやると思うのか」
やはりはなから情けをかけて見逃すつもりはないらしい。殺し合いでしか解決しないと考えているのかもしれないが、俺は話し合いの場を持ってもいいと思う。無駄に命を犠牲にする必要はないだろう。殺戮を好む黒の思考は未だに理解できない。
「話し合いで解決できない?」
「無意味なことだ」
「無意味かどうか話してみないとわからないだろ」
「議論しても平行線のままだ。どちらかが奪う以外に解決はしない」
俺の考えは生ぬるいのかもしれない。マフィアの抗争がどんなものかわかってはいたが、ファミリーを大切にしない黒のやり方は間違っている。組員がいるから組織が成り立っているのに、それを無下に扱えばいずれは内側から破壊してしまう。
優しさを失った黒にどんな言葉を投げかけても心には響かないのだろう。黒を理解出来ていない俺には考えてることがわからない。
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