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第15話 地下の監禁生活
監禁生活されていたある夜のこと。これまでなかったことが起こった。鉄格子に鍵がかけられておらず、押せば簡単に開く状態だ。こんなこと今まで一度もなかった。早めの就寝をしていた間に誰が来て、鍵を掛け忘れたのだろうか。ここから出たら黒に何をされるのかわからないが、抜け出したい。
鉄格子を押した。軋む音は多少するが幸い見張りはそばにいない。奥へ進むと同じような部屋がいくつもあった。そのまま迷うようにあらゆる部屋を開けた。そして1つの部屋にたどり着いた。中から呻るような声が聞こえる。電気のスイッチを探すが見当たらない。
暗い部屋の中へ入っていく。好奇心には勝てなかった。
「うぅ…っう…ぐる…ぅ」
すぐ近くから唸る声が聞こえ、鼻息がかかる。
「誰かいますか?」
「ぐるる…ぅう…」
獣のような声は返事と受け取れるものではない。コツンと足に何が当たり拾い上げるとライターだった。ライターを灯してあたりを探るとひとりのやせ細った男が床に座り込んでいるのを見つけた。
「おい、大丈夫か?…な、あんた」
体を揺するとようやく顔をこちらに上げた。目は薬物中毒者のそれだった。体は痩せ細り骨と皮だけのようだ。いつからここに繋がれていたのか分からないがもう人の言葉も話せないほど堕ちてしまったのだろうか。
「なんでここにいる。いつからだ」
「…お前…誰だ」
急に話したので驚いた。先ほどの唸る声とは別に掠れたような声だ。
「…周青黎だ」
「知らない名前だ」
「最近ここに来た」
「そうか…俺はもう10年以上ここにいる」
その男の顔はどことなく黒に似ている。今にも餓死しそうな体は力なく足を投げ出して座ったままだ。一緒に逃げようにも担ぐのは難しかもしれない。
「逃げ出そうとは思わなかったのか」
「俺は外の光に耐えられない」
「薬物のやり過ぎで?」
「あぁ、もう薬無しじゃ生きられない。ほらまた禁断衝動がぁ…うぅ…うっ…」
耐えるように唸る男に腕を強く掴まれた。爪が肉に食い込み痛いくらいだ。
「早くここから出ろ。お前を縊り殺しそうだ…まだ自我の保てる間に…早く行け」
「あんたをこのまま置いていけない」
「無理だ…そろそろ薬物が支給される時間だ。だからもう行け…ここに来たことがバレたら…黒はタダでは済まさない」
この男の言う通りすぐに逃げないと生きてここからは出られなさそうだ。先ほどからこちらに噛み付いてきそうな覇気を感じる。男の正体もわからないまま、部屋を出た。
監禁されていた部屋に戻ろうとも思ったがこのまま地上に出ることにした。
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