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第16話 試される覚悟

3人の相手をして意識が飛んだ。暫くして目を開けると男たちは居なくなっていた。かわりに首に違和感を感じ、触れてみると革のような感触を感じる。まるで畜生のように首輪をつけられている。 そして側から珈琲の香ばしい匂いが漂う。――黒の行方を捜す。 「黒…」 「起きたか」 「俺は…」 「ぶっ飛んだ。薬のせいだろうな。快楽が倍以上だっただろう」 髪を解いた黒はスーツではなく見慣れた黒いバスローブに身を包んでいた。此方を見つめる目は鋭く冷たさは感じるが突き放す様なものではない。そして優雅に珈琲を飲んでいる。 「…薬。使いたくはなかった」 「…抵抗や痛みを感じるよりはいいだろう」 「でも…」 「でも良かっただろう」 警察官の端くれとして薬物を使うのだけは嫌だった。己の恐怖と絶望感に負けた気がするからだ。 良かったかと問われたらそれは良かったのだろう。意識が飛ぶほどだったのだから。だが少しも嬉しくない。あの日犯された記憶を完全に思い出すきっかけとなってしまった。 「あんたは平気だったのか。俺が他者に蹂躙されても…」 「何が言いたい?」 「俺は所詮その他大勢と同じで性欲を満たすだけの存在なのか」 「…お前……まさか愛されたいのか」 黒の口から愛という言葉が出るのは初めてだ。そして言われて気がついた。俺はどうやら愛されたいと思っていたらしい。 出会いは最悪だった。見え隠れする優しさは多少あっても冷酷無慈悲で、好きになる要素なんてないはず。なのにどうして。   「だとしたら…どうするんだよ」 「他を当たれ。あいにく愛だの恋だのは持ち合わせてない」 「…なんでって思うよ。あんたに酷いことされたのに」 愛してしまったのだと自覚すれば簡単だ。あとは溢れるように想いが膨れ上がる。そして受け止めてくれる皿がなければ垂れ流してやがて無くなってしまう。厄介な相手に恋したものだ。よりにもよって反社会的組織の首領なんかに――  

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