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第16話 試される覚悟
「独り占めしたいくらい好きならその証を刻め。そして全てを捧げろ」
「証?」
「ここに墨を入れろということだ」
黒は下着を指し示した。そんな部位に刺青を入れるのは危険行為だ。しかし愛の証を刻むのならそこが一番適していると思う。何故なら性交渉以外で他者が見ることがない部分だからだ。
「わかった。でも…あんたに約束してほしいことがある」
「なんだ?」
「俺以外を抱かないでくれ…俺以外を優しくしないでくれ」
独占欲垂れ流しのお願いだ。俺一人を見て相手にしてほしい。ほかの誰でもない俺だけを見てほしい。こんなにも恋い焦がれる想いを抱いたのは初めてだ。
「お前しか抱かんということは毎日お前が相手をすることになるんだ。それでいいんだな」
「ま、毎日…」
「そうだ。お前にできるのか?」
「…俺しか抱かないっていうなら出来るよ」
ふっと笑った黒の顔は今までで一番柔らかくて優しいものだった。特別な笑顔を見せるのは俺だけでいい。独り占めしたいんだ。
「いいだろう。お前のその望みに答えてやる」
「恋人にしてくれるか?」
「恋人?お前をか…」
断られることを承知で言ったが黒は珍しく険しい表情をすることなく考え込んでいる。しばらく沈黙した後で、こちらを食い入るように見てくる。
「お前は俺のタイプじゃないんだがな」
「悪かったな…」
「まぁいいだろう。だが足手まといになるなよ」
「わかってる。あんたを守れるくらい強くなりたいんだ」
黒が首につけていた輪を外して解放した。これからは主従ではなく、あくまでも対等な関係性だ。
関係は変わっても黒の態度はあまり変わらないように思える。交際生活は不安も心配もありながら始まったのだった。
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