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第17話 掴んだ居処

療養中のレオの潜伏先は今は営業していない病院だ。廃墟と化したそこに鮫牙の面々は向かう。今、最後の決戦が始まろうとしていた。 「お前らは裏に回れ。周、燈の二人は私と一緒に面から入る。他は作戦通り後に続け」 黒の指示する言葉に皆静かに頷き各々その場を後にした。俺と黒は銃を片手に面にいる見張りを蹴散らす為に静かに近づく。 黒が的確に見張りの背後は回り首を捻った。手慣れてる。扉を開いて中へ入るとそこは静まり返り妙な雰囲気だ。 「周、逸れるなよ。気を引き締めろ」 「わかってる。あんたからは死んでも離れないからな」 「…では行くぞ!」 三人でエントランス奥の廊下を歩き一つ一つ扉を開き中を確認していく。おかしいくらい中は静まり返り、罠の臭いがぷんぷんする。慎重に黒を守りながら進んでいく。 「そこに居るんだろう。出てこい、隠れてやり過ごせると思っているのか」 黒の発する言葉に観念したように廊下沿いの扉が開かれた。鷹翼で初めて見る顔だ。抗争の時には見たかもしれないが敵味方入り混じる中で顔まで覚えていない。 「…死ね!…黒璃秦!!」 男が銃口を黒に向けた。瞬間、燈が威嚇射撃をする。銃弾が飛びかう中で俺も訓練の成果を見せるために撃った。今は本当に心から守りたい者と出会ったんだ。負けるわけにはいかない。 目の前で余裕な表情で応戦する黒を目に焼き付けた。刑事としての正義や秩序なんてどうでもよく思える。たとえこの先進む道が奈落の底だとしても黒の背中だけを追い続けるだろう。 「お前の殺意はその程度のものなのか?」 「…お前を許さない。何度でも追いかける。絶対に…」 執着するように何度も何度も繰り返し言う男に目は殺意だけではない。寂しそうな目をしていた。薬物中毒のそれとは違うが近いものが見え隠れしていた。 一歩間違えたら取返しのつかない、そんな雰囲気を纏っている。危険な男だ。 燈が男と応戦し、飛んでくる弾丸を交わす黒。反撃に出る俺。それでも敵はなかなか倒れない。殺意が男を生き永らえさせている。燈と俺は黒の前に立ち攻撃を続ける。これ程まで強い殺意を持つ相手に会ったことがないし、勝てるとも思えない。 目の前の男に集中し感覚を研ぎ澄ませる。   「ぐ…ぅ‥」 背後から鈍った声が聞こえた。振り返ると黒が別の鷹翼の男に拘束されていた。そしてその男からは確かな殺意を感じる。目の前の敵に集中するあまり周囲の警戒を怠っていた。 全員がそんな事あるのかと思う位あっさり敵の戦略に嵌ってしまったんだ。 「撃つなよ。お前らの大事なこいつに当たったら困るだろう?」 男は挑発するように黒の首に銃を突きつけた。彼が何の抵抗もせずあっさり捕まるなんて考えにくい。何故だ…。これも戦略の一部なのだろうか。だとしても敵にわざわざ捕まる必要があるのだろうか。 「離せ…!望みはなんだ…」 燈は血相を変え一歩前に出た。勿論そんな行動も男に警戒されてしまう。緊張感と絶望で今にも潰れそうな俺とは全然違う。殺意一色だ。恐怖など微塵も感じている様子はない。 「黒璃秦の命に決まっているだろう」 「ならば早く殺せ。それは偽物か?」 黒は男を挑発させ突きつけられている銃を握った。相手は復讐しか頭にない。首領を人質にされてはこちらが手出しができないとわかっていて、やっているんだとしたら余程の策士だ。俺にはそんな心の余裕はない。この状況を打開する策をいくつも考えるが、この先どのくらいの構成員たちが待ち受けているのかもわからないまま安易に行動するのはまずい。俺はまた守りたいものを守れず奪われてしまうんだろうか。 この男は黒を殺そうと思えばいくらでも出来る状況だ。なのになぜ行動に移そうとしない。少しでも気の迷いがあるのならそこを突けば一気にこちらが優位に立てるかもしれない。 「片桐さんを薬で狂わせ、アランさんを侮辱して殺した…。そう簡単には殺さない」 「いたぶるか…虐げるか?…くくくっ…ははははははっ!」 狂ったように高笑いした黒にその場にいた全員が唖然とした。屈辱を与えいたぶろうとする男が側にいるのに何故そんな不敵な笑みを浮かべられるんだろう。余裕すら見える。こんな状況でも黒は冷静だ。心が全然乱れていない。表情もいつもと何ら変わりがない。怯えなんて1ミリも感じられないんだ。黒のメンタルはこういう状況でも折れることはないようだ。  

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