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第19話 首領の行方
拉致されて目の前からいなくなってから1ヶ月が経とうとした時、スパイからの情報で黒が監禁されている事を聞かされた。
「首領は囚われていても生きておられる。そう簡単に亡くなる人ではないからな」
「わかってる…」
燈に励まされた。普段なら憎たらしいことの一つでも言ってるところだが、到底そんな気持ちになれない。
生きていたことが心底嬉しい。死んだと考えたことは一度たりともなかったが、それでもずっと心配で眠れぬ夜を過ごしてた。
「いつ救出するんだ」
「準備は1ヶ月前から虎視眈々と続けてきた。いつでも行ける。ただ闇雲に向かっていっても、首領を見つけられない」
「じゃあどうするんだよ」
「今回の目的はあくまでも首領の奪還だ。敵対している組織に勝つことじゃない」
黒を救い出せるなら鷹翼なんてどうでもいいということだ。潰すのはいつでもできるのだから。今最優先にすべきことは何なのか各々考えて準備を進めた。もちろん俺も銃の腕を鍛え上げ、ナイフの使い方も覚えた。
もう二度と黒と離れ離れにならない為なら、どんな辛いことでもできてしまう。これ程までに俺の中には甘美な毒が侵食している。
「こん詰めすぎだ。やりすぎは良くない」
「訓練にやりすぎなんてないだろ」
「休めるときに休むのも訓練だ。そんな調子だと救出作戦まで持たないぞ」
「今の俺はへたったりしない。どうしても手に入れたいんだ」
今のこの想いは異様であるという自覚はある。執着し鷹翼の奴らに殺意さえ覚えている。だが自分の中にある殺意を飼いならし、黒をこの目で見るまでは狂ったりしない。
そして燈に殺意を見抜かれてはいけない。作戦から外され兼ねないからだ。
「想いはみんな同じだ。なんとしても首領を取り戻す。死なせはしない」
「同じなんかじゃない。俺の想いは皆んなのそれとは違うって知ってるだろ」
「知っている。愛してるんだろ」
燈にはとっくに見透かされてる。無理矢理抱かれてるように装っていたのも、好きだと自覚しているのも全て知ってるんだ。それでも俺がどんな風に抱かれるのかは黒しか知らない。知らなくて良い。
「三日後、作戦決行する。それまでは首領代理として休みを命じる。逆らえば作戦から外す」
「っ…わかった。ここまでして作戦から外されるのは我慢できないから従うさ」
首領のいない間の代理として満場一致で燈が選ばれた。常に補佐してきたのだから当然といえる。俺は護衛であっても補佐的立場に無い。幹部会議に出席しても発言権は与えられず、黙って聞き流していた。責任ある立場であることに変わりは無いが、会議で意見するよりも黒のそばにいることの方が大切だから。
燈が立ち去るのを見届けて、訓練場を後にした。静まり返り匂いもしなくなった黒の寝室へ帰るのは嫌だが、行く場所がない。つい最近まで残り香のしていた部屋も今は何の匂いもせず空っぽだ。
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