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第20話 地獄絵図
単独行動は許されない。それでも俺はあの男の言うことを確認せずにはいられない。そっと黒髪の男に近づく。
「黒…」
名前を呼ぶ声に男の体がピクリと反応した。やはり黒なのかもしれない。伏せられた顔を覗き込む。
「っ…黒…」
俺が見たのは薬物中毒者特有の死んだような瞳だった。威圧感を微塵も感じない。こんな黒は黒じゃない。そう思った時、押し殺していた何かが箍を外したように溢れ出た。
「貴様らぁ――!!」
銃を持ち怒号をあげた。殺意に狂った俺を止める燈の言葉に耳を貸さずに駆け出そうとした瞬間、強い力で制止された。
「黒…」
「…‥」
黒が顔をあげ真っ直ぐ男を見つめている。開かれた左目に違和感を感じた。あるはずのものがない。嵌めていた義眼がない。その代わりに血が溢れてる。痛々しい姿に自然と涙が溢れ始めた。
「周、抑えろ!今は首領を連れ帰るのが最優先だ。目的を見失うな!」
「くそ…」
燈の言う通りだ。何一つ間違ってない。この機を逃せば永遠に黒を連れ帰れない気がする。悔しい気持ちと殺意を押し込めて、黒の手を取った。
皆んなで走った。一刻も早くアジトに帰りたい。一切手を出してこなかった奴らに後ろ暗さを感じながらも振り返る余裕なく帰路を急いだ。
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