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第21話 晴れない灰色の空

救出した黒の体にはいくつもの拷問を受けた痕跡があった。どれも酷いものばかりだ。アジトで療養するのはリスクが高く、当初から予定していた通り離れた場所で体を休めることになった。 以前抗争の後訪れた孤島に降り立ったヘリから担架のまま燈と二人で運び込んだ。 「後のことは頼んでいいか?」 「勿論だ」 「分かってるとは思うが薬を断つのは生半可じゃない。死ぬより辛い思いをすることになる。首領もお前もな…」 「わかってるつもりだ。だからこうやって拘束したままだろ」 お抱えの医者に言われた通り禁断症状が引き金で人を殺したり暴れ出す可能性が大いにある。今は落ち着いて寝ていても薬が切れればどうなるかはわからない。だとしても俺は黒の側を離れることはない。今そばにいなければ壊れてしまいそうだから。 「何かあれば連絡くれ。鮫牙のことはひとまず任せろ。首領が戻るその日までどんな手を使っても守ってみせる」 「あぁ、そっちのことは任せる。そして必ず黒と戻る」 「わかった。もう行く。見送りは要らない」 そう言って燈は出ていった。しばらくしてヘリの飛び立つ音がして、二人になったと思ったら涙が溢れた。包帯だらけの手を握り、目覚めるのを待った。どれだけ酷い扱いを受けたとしても構わない。黒が元に戻ればそれでいい。 「目を覚ましてくれ」 願うように目を閉じた。しばらくそうしていたら握った手がぎゅっと動いた。 「…黒!」 「…」 開かれた瞳は焦点が合っておらずまだぼんやりしているようだ。廃墟で会った時から一度も声を聞いてない。 「黒…」 「…く…」 「ん?どうした?」 「くすり…くれ…」 薄く開かれた唇が震え小さな声で紡がれた言葉は依存症の一つだった。やめると欲しくなるという心理的依存。やめようと思ってもやめられなくなる。 薬は手元にない。禁断症状が出ても与えるつもりはない。常習していたわけではないから薬が抜けるのも早いはず。少量の摂取であれば依存性は少ないと医者が言ってたが、1ヶ月でかなりの量を摂取していたのは見て明らだ。 「だめだ。ここに薬はない…」 「…どうしてだ。あれほど…与えると言っていただろ。お前…騙したのか!」 掠れた声で怒りを露わにした黒は強い力で腕を掴んだ。爪が食い込み血が溢れるほど強く。何があっても、訳のわからないことを言われても与えないと決めた以上優しさは見せない。 「…お前は俺を殺すつもりなんだな…このまま何も与えず…」 「っ…痛い…く、殺すつもりはない。戻ってきて欲しいだけ」 「…戻る?…どこにだ。裏切り者の元へ戻れというのか!?」 体を激しく揺さぶられる。裏切り者とは誰のことかわからない。それでも機嫌の治らない黒から与えられる罵声や暴力に耐え続けた。あの強かった黒はどこにもいない。今目の前にいるのは薬がもらえず逆上し、抑え込むことが出来ない姿だ。 体も心も傷ついた黒を再生させることはできるのだろうか。今でさえ力負けしているのに傷が治り、更に力が増したら手に負えないかもしれない。そうなってもここには俺と黒だけだ。助けを呼んでもすぐには来れない。 晴れない天気と同じように心が曇りそうだ。それでも諦めるなんて出来はしない。

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