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第21話 晴れない灰色の空
あれから数週間が経った。目覚めては薬を強請り与えなければ逆上する。かと思えば気だるそうに起き上がることさえできずベッドの上で過ごしている。全身に痛みが走り顔を歪めたり状況は様々だった。
黒は俺を認識しているのかすら怪しい。恋人同士であることも無かったように甘い雰囲気にはならない。
どれだけ痛い事でも耐えた。辛い言葉も我慢した。それでもなかなか薬は抜けない。でも少しずつだが食事は取れるようになっている。少しの進歩だが大きな一歩だ。
「…しゅ…う…」
「黒?…俺はここだよ」
「喉が渇いた」
喉がよく乾くらしく一日の水分摂取量がかなりのものだ。水を取って戻ると黒が手を差し出してきた。躊躇することなく手を取る。今黒には俺しかいない。他の誰もここには現れない。そんな環境だから俺はどんなことでもしたい。
「黒…お水…」
「後でいい…」
そういうと強い力でベッドに引っ張り込まれた。久しぶりの情事への誘いにしては少しばかり強引だ。慌てて逃げようとしても、あっけなく敗退し組み敷かれる。
手が頬を撫で下へと移動する。くすぐったい感覚に身じろぎすると首に手をかけられた。
「…かはぁ…く…やめ…」
「…何故だ。なぜ薬をくれない…こんなに苦しんでいるのに…貴様は俺を殺す気なんだろ。だったら俺がお前を殺してやる!」
一層強い力で首を絞められた。もがき苦しむ姿をにやけた顔で見つめられ、背筋が凍った。このままでは本気で殺されてしまう。なんの罪悪感も沸いていないような表情で見下ろしてくる。今の黒はとても怖い。人の話を聞くつもりがないのだ。
腕を掴み消えそうな声で何度も名前を呼びやめてくれと懇願した。そうすると黒は手に込めていた力を緩めた。
「…俺は…お前を殺そうと…」
「黒…大丈夫。生きてるから」
「…もっと鎖を短くしろ…ベッドに縫い付けるくらいに強く縛れ」
黒は眉間に皺を寄せてこちらを睨んだ。黒の言うとおり鎖を短くしてベッドに縫い付けた。抵抗することもなくおとなしくしている姿はまるで抜け殻のようだ。
この選択が正解だったのか今はまだわからないがきっといつか笑い合える日が来ることを願って俺は黒の看病をし続けた。
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