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第22話 愛するということ

コテージで療養生活を送って3か月が経った。今や禁断症状の類が全くないくらいに回復している。それでも黒の威勢は以前ほど鋭さを失ったままだ。寝食を共にしていても体を交わすことはない。 拘束していた枷を外しコテージを自由に歩けるまでに回復しても壊れた心の修復には時間がかかっている。 「黒、食事出来たよ」 「…すぐ行く。先に食べていろ」 「わかった…」 二人でいるのに大した会話もない。威圧的で人を見下したような態度もすっかりなりを潜めてしまった。黒の本性を今まで知らなかったが、これを機に知ることが出来るかもしれない。そんな淡い期待を抱きつつも息苦しい思いを抱えている。   「…一人で食べてもおいしくない」 食事の好みも嗜好も知らない。今思うと俺は黒の事を何も知らない。過去も生い立ちも嗜好も何もかも。憎んでいたし好意を寄せていなかった時もあった。だから知る必要がないと思っていたのに。今は黒の何もかもが知りたい。たとえどんな辛い過去を知ることになったとしても。 「腹減ってないのか?」 「…うん。あんまり…」 「お前まで元気がないなんてな」 「もう体調は大丈夫なんだよね?」 禁断症状はなかったとしても受けた拷問の跡は酷いものだった。剥がされた爪も3か月で元のように生えつつある。でも背中に焼けた鉄の棒を押し当てられた跡は未だに痛むらしい。せっかくの刺青も火傷の跡で乱れてしまっている。 それ以上に心の傷は未だ癒えていない。俺に対してひどい扱いをすることは無くなったが、覇気がまるでない。 「体の傷ならまだ痛む」 「…そっか。ご飯冷めるから食べてよ」 「あぁ、今日は…肉か」 「うん。燈が材料をそろえてくれてる」   燈は首領救出の一件以降、鮫牙の存続の為に首領代理として組織をまとめ上げている。相当忙しいはずなのに合間を縫って俺たちに食材を届けてくれている。 外界から遮断された小島に佇む小さなコテージ。海鳥が休憩の為に立ち寄るくらいで、あとは静かなものだ。さざ波の音は時々にぎやかになるけど銃声よりましだ。 「…鮫牙はどうなっている」 「燈の働きのお陰で存在している」 「私の復帰を待っているということか」 「そうだと思う。俺はずっとここに居たから組織の事はよくわからない」 禁断症状で狂った時、何度も暴言や暴力を受けた。それでも俺は見捨てずに側にいて今も甲斐甲斐しく世話をしている。これが愛でなければ何だというんだ。最近の悩みはこの想いを伝えるべきかということだ。  

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