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第22話 愛するということ

午前10時、ぼんやりとしたまま目覚めるといつもの光景がひろがっていた。黒が添い寝している。だが以前と違うのは長かった黒髪が手に絡まってこない事だ。何があったのか俺から聞くつもりはないが手入れされていた長髪が救出した時には短く切られていた。 「ん…」 「目覚めたか?」 「うん。今起きた」 「良く眠っていたな。そんなに気持ち良かったか」 視線だけ寄越し気だるげに話す黒に色気を感じた。髪が短くても恰好良さは変わらない。以前なら眼帯で隠されていた左目も今は殆ど丸出し状態だ。行為の最中は閉ざされていた目も自然と開くようで、昨晩何度も義眼を見ることが出来た。 「…べ、別に」 「意外とそっけないんだな」 「そういうあんたは…調子狂う」 「愛されて抱かれた気分はどうだ。優越感でいっぱいだろう」 得意げに笑って見せた黒に引き寄せられキスを落とされた。デレデレされるのは初めてだ。これが愛するということなのだろうか。 黒に恋愛感情を抱くことも恋人として扱われる日が来ることも予想してなかった。 「あ、そうだ。これ…」 「ん?あぁ、髪留めか」 「黒を探してて見つけた」 「私にはもう必要ない。お前にやる」 そういって突き返した黒の表情は普通だった。拷問で受けた屈辱の数々を思い出したわけではなさそうだ。髪留めを貰えたのは嬉しいが俺は長髪じゃないし使うことはない。 それでも初めて貰った物は宝物にしたいくらい大切なんだ。 「ありがとう」 「飯食うか?」 「まだこうしていたい。黒が復帰したらまた忙しくてこんな風にゆっくり過ごせなくなるだろう」 「そうだな。また忙しい毎日が始まる。休みすぎな気はするがたまにはいいかもしれないな」 黒は遠い目をして何かを思い出しているようだ。過去のことを知りたいと思っても言葉でしか聞くことはできない。それでも未来は一緒に見ることも体感することもできる。死んでしまっては未来を生きることはできない。だから俺はまだ死ねない。 黒と描く未来の為にこれからいくつもの試練や修羅場を共に越えていく。どれだけ過酷だとしても一緒なら乗り越えられる。こんな想いを本人に伝えたらどんな顔をするだろうか。そんなことを考えながら俺は黒に抱きついた。 「なんだ甘えてるのか?」 「うん…まぁ、そんなとこ」 「たまに素直だと調子が狂うだろ」 恥ずかしそうに苦笑いした黒にキスを落とされた。これが愛でなければ一体なんなんだろう。夢だとしたらこんな残酷なことはない。夢から覚めないでくれと言いたくなるくらい幸せだ。

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