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第23話 帝王の復活

黒の復活を祝う宴が開かれた。支援者や末端の組員まで皆んなが黒の復活に拍手を送る。髪は短くなっても首領としての貫禄は変わらない。むしろ髪が短くなり際立った。 黒は次から次へと挨拶を交わしていく。宴の席に着く少し前まで、俺を貪っていた姿はどこにもない。全ての人に挨拶を終えた黒は気づくと何処かに消えていた。後を追う。 「黒…っわぁ…」 「静かにしろ」 「何してんだよ。主役が抜けてどうする」 後ろから口を手で覆われ小声でしか話せない。一瞬誘拐犯かと思い、体を強張らせてしまったが今はすっかり落ち着いている。 会場のすぐ横にある控え室に探しに行ったところを羽交い締めにされた。そして今まさに食われそうになっている。 「お前、支援者どもに囲まれてヘラヘラしていたな」 「だって愛想よくしないと」 「あいつらは基本的に下心しかない。誘っていると思われかねない」 「俺を狙うやつなんて居るわけないだろ」 黒は強引に首筋を舐めてきた。まるで嫉妬に狂った獣のようにマーキングされている。 「今のお前はそのくらいダダ漏れなんだ」 「ダダ漏れ?」 「色気だ。周が他者を無意識に誘惑していると燈から報告を受けた」 「そ、そんな。なんで」 無意識に誘惑したつもりはない。それに腹がぼてっと出てハゲている中年のオヤジ達を誘ったりしない。 それでも自分から出てる何らかのせいで黒を不安にさせていると思うと少しだけ心が痛む。 「無意識ほど恐ろしいものはない。意図的に制御できないんだからな」 「いつからそんな風に…」 「私と愛し合った後かららしいな」 たしかにあの日互いに愛し合いどちらか一方が満足するのではなく双方が感じ合うセックスをした。あの後からだとしたら辻褄が合う。愛し合うことが幸せだから。 それが原因だとしたら‥しばらくは自制しないといけない。 「じゃあ…しばらくは」 「しばらくは何だ?」 「…しない方がいいと思って」 そう言った瞬間勢いよく壁ドンをされた。あまりの音に怖気付いてしまうくらいだ。 鋭い視線で見られる。拒絶と取られてしまったのだとしたら誤解だ。俺は少し控えるつもりだった。 「…したくないということか」 「違うよ。回数を減らすってこと」 「嫌なのか?」 「違うって、ただ毎晩セックスするのは控えようって言ってるんだよ。俺も黒も今は緩みきってるから」 こんな風に幸せに浸りきってる状態で敵に襲われたら勝てるものも勝てなくなる。だから毎晩するセックスの回数を週3回にするだけで、ゼロにはしない。できることならしばらくお預けしたいが、お互いにそれはできない。それにお預けの後が怖いんだ。抱きつぶされて2、3日はベッドから出ることも叶わないだろう。 俺の言葉に黒はじっと考え混んでいるみたいだ。 「仕方がない。こんな事で死ぬわけにはいかないからな。その代わり、していい日は夜が明けて太陽が昇るまで抱く」 「な…それは俺の体が持たない」 「まだ若いだろう。平気なはずだ」 「受け入れる側を知らないから言えるんだよ。起きた時どれだけの衝撃かわかる?」 何度も体を繋ぎ抱き合った朝は腰が怠く動くだけで痛みが走る。トイレも一人で行けないくらい腰が砕けて情けなく連れて行ってもらっている。 「ならば抱く側の苦労がお前にわかるのか」 「苦労って?」 「感じさせなければならないというプレッシャーと腰を動かし続けるんだから翌朝は辛い時もある」 「でも平気そうだよ」 互いの立場に実際立ってみなければわからない。それでもセックスに関して俺が黒を抱くことはない。考えた事すらないんだ。黒も男に組み敷かれることなんてなかっただろう。おそらくだが… 拷問をうけた時もしかしたら辱めを受けていた可能性もある。その事だけが気になっていた。 「回数を減らす件はわかった。善処する」 「うん。っ…んぁ…今…ダメ」 「抱きはしない。ちゃんとベッドでしたいからな。ただのつまみ食いだ」 そういって意地悪そうに笑った黒からは覇気のなかったあの時の姿は感じられない。それでも心の傷はまだ癒えていないはずだ。 俺の前では見せてくれてもいいのにプライドが邪魔しているのか。弱みを晒そうとはしない。

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