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第24話 果てしない夜
宴が御開きとなり皆がぞろぞろとアジトを出て行ってから3時間が経過している。俺は風呂に入れられ、恥ずかしげもなく洗われた。
満足げな黒はバスローブに身を包み優雅にワインを飲んでいる。
「たまには晩酌に付き合え。つまらん」
「わかった。少しだけな」
注がれたグラスを受け取り口に含んだ。口内に独特な香りが広がる。辛味はなく程よく甘い。飲みやすいな。
「美味いか?」
「飲みやすくて美味しい」
「辛味のあるワインも美味いがこれもこれでなかなかだ」
ご機嫌な黒の手が伸びてきた。後頭部に手を添えられて引き寄せられる。そのまま至近距離で見つめあっている。
隠されたままの左目を独占したくて眼帯を外した。薄く開かれた瞳を覗き込む。
「物好きだな」
「前と眼球の刺青が変わってる」
「あぁ…飽きたからな」
あの日目潰しされたように左目から血を流し、黒にあるはずのものが無くなっていた。開かれた瞳は闇そのもので怖かった。酷い拷問を受けたダメージが今も黒を苦しめていたとしたら、鷹翼の奴らに復讐しないと気が済まない。だが黒は平気そうに振舞っている。俺にすら弱みを見せてくれない。苦しい助けてくれと一言も言ってこないんだ。
「黒。どこも痛くない?」
「…痛くない。急にどうしたんだ」
「あんなことされて傷つかないわけない。なのに黒は平気そうだから」
おそらく俺は今にも泣きそうな顔をしている筈だ。それだけショックで衝撃的だった。
孤高の存在である黒が敵の幹部ごときに抵抗せずいいように扱われたんだ。
「忘れたのか?私は酷い人間だろう。同じように屈辱を与え脅迫し暴力で全てを奪ってきた。それが自分の身にも起きただけだ」
「酷い人間だとは思わない。優しさもあるし、感情もちゃんとある。何の痛みも感じないわけじゃない」
「周…お前…」
頬に手を添えられ包み込まれたまま、キスを落とされた。特別な人にしかしないキスを与えられる喜びは計り知れない。彼は俺だけのものだ。誰にも渡さない。たとえ進む先が地獄でも奈落の底でも飲み込まれたい。
完全に体に回った毒は甘い痺れを残したまま体を支配しやがて壊す。その日が来るまで俺は黒を愛し続けるだろう。この命散る日まで離すことは決してない。
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