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第26話 進化する鮫牙

新しい船が港に到着した。以前とは違い白く塗装されている。前回の船は黒塗りで見るからに怪しかった。邪悪さを表に曝け出しすぎていたが、今は世界一周でもしそうな洒落たデザインだ。 「なかなかいいデザインだろう」 「うん。いいね。でもこの船でドンパチしないよね?もう船内で銃撃戦は嫌だよ」 「今回は島を巻き込む。この島で奴らをおびき寄せる」 「乗り込むんじゃなくて」 おびき寄せるとこちらに勝ち目が多くなる。勝手知ったる地だから裏路地や地図に無い細かいところまで知り尽くしている。 黒ならまた船を選ぶかと思っていたが何故この島を選んだんだろうか。 「以前乗り込んで最悪な目に遭っただろう。こっちの領地なら勝てる」 「でもどうやっておびき寄せるの?」 「色々と考えている。まぁ見ていろ」 あれは最悪だった。乗り込んで黒を拉致されて酷い目にあわされた。あんなことは二度と御免だ。 黒は得意げに笑った。彼に悪事を企てさせたら右に出るものは居ない。たとえ善良な市民を…いや、訂正する。善良な市民はもうこの島にはいない。 マフィアが統治していれば嫌でも魔の手は市民にまで及んでしまう。勿論意図的に巻き込むことはしないし、意図的に殺しはしない。それでも犠牲はどんなことでも着いて回る。 「楽しそうだね」 「そう見えるか。愉快ではあるが楽しいのかはわからない」 「そう見える。とても楽しそう。でも下手なことはしないでね。何よりも生きていないと…」 「だが死よりも大切なものがあれば私は命を懸けられる」 黒は真っ直ぐ目線を逸らすことなく見つめてくる。大切なものって俺の事かとうぬ惚れてしまいそうになった。だとしても本当は危険なことから足を洗って二人きりで孤島で余生を過ごしたい。釣りしたり、ポーカーしたり。お酒飲んで二日酔いでずっとベッドの中で過ごしたり。海辺でBBQしてみたり。引退後も出来ることは沢山あるし、してみたいことは沢山ある。それこそ豪華客船で世界を周ったっていい。 銃なしで死角に怯えることなく過ごしたい。身請けして妹を孤島に誘うのもいいかもしれない。普通の青春を味わって高校や大学にも行って欲しい。 俺は最近目前の抗争より未来のことを考えている。黒に言ったら馬鹿げてると鼻で笑われるから、言わない。でも必ずこの未来を掴んで見せる。 「俺は黒と一緒に生きていたい」 「そうだな。私もだ。ほら冷める前に食べてしまおう」 「うん…そうだね」 黒に促されて再びナイフを取った。穏やか夕食は暫く送れそうにない。だから今この時を有意義なものにしたい。思い出にするつもりはない。だってそんなのどちらかが死ぬみたいだし。 俺だけ生きて過去にこんなことがあったなって思い出に耽るみたいな。思い出になるとしたら互いに皺くちゃの爺ちゃんになった頃だ。あの時は若かったなぁなんて思い出に浸る。 そんな未来を現実にするために俺は全力で磨き上げてきた牙を鷹翼に向ける。たった一人のために戦う。そう心に決めている。

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