74 / 76
第27話 作戦決行前夜
用意周到に準備してから一ヶ月があっという間に過ぎた。 俺は死ぬ気で訓練して燈と変わらないくらいには強くなれた気がする。でもあとは実践だけだ。
いかんせん実践経験が少ない。そこはどうしたって補えない。でも信念は誰にも負けない。
黒が命じた通り作り上げられた高性能な遠隔式爆弾の威力はシステム上のシュミレーションはできている。しかし試すに適する場所がない。島の中でやれば自ずと振動や爆音でバレてしまう。今更外に持ち出して関係ない土地で爆発させるのも気がひける。だから威力は蓋を開けてみなければわからない。
黒や技術職の人たちは計算間違いをするとは思えない。技術部を統括する男は黒が異国から連れてきた爆弾づくりプロフェッショナルだ。
できることは全部した。だから悔いはない。それに負けるつもりはない。
「こんなところにいたのか」
「うん、夜風に当たろうと思って…」
「眠れないか」
「眠れない。明日で全てが決まると思うと怖いんだ。失うかもしれない」
泣いても喚いても明日で決まる。俺の望んだ未来が訪れるかは神のみぞ知る。
「失うのが怖いか」
「怖いよ。黒は怖く無いの?」
「どうだろうな。失う辛さは知ってる。自らの手で殺したんだからな。どうしたってあの時の記憶は消えない。だがあの時と今とは状況が違う」
「状況?」
黒はいつも以上に饒舌だ。最後になるかもしれないから、惜しまないために話しているように思えてならない。
これ以上話を聞いていたら自然と涙が出そうだ。どうしても負ける事を想像してしまう。未来を想像するのと同じくらい。失って絶望する姿を夢に見た。
「お前は薬漬けじゃないだろう」
「たしかに。でもそれだけ?」
「何が言いたい」
「俺は黒と身も心も繋がってると思ってる…」
勝手な願望だとわかってる。黒は孤独を好んでいるようにみえる。今だって恋人と二人きりなのに甘い雰囲気にならない。好きとか愛してるとか言われた試しがないし、この関係はなんなのだろうかと思うこともしばしば。
「背中を任せたのは後にも先にも周だけだ。それ以上何を求める」
「…そうなんだ。てっきり燈に任せてると思ってた」
「あいつは弾除けにはなっても背中は任せられない」
特別な自覚はある。でも猛烈に不安だ。
月明かりに照らされた黒はいつもより妖艶に映る。素直に綺麗だと思った。黒が上着を背中にかけてきた。気障な男だ。
「体が冷えるぞ。これでも着てろ」
「黒が寒くなるでしょう。俺は平気だよ」
「いいから着てろ。風邪でも引かれたら迷惑だ」
「黒、もう中に入るから…」
もう一度月を眺めてから部屋に戻った。やっぱり暖房の効いてる部屋は温かい。黒は最後の準備とばかりに銃の手入れをし始めた。
「黒」
背中に抱きつく。この大きな背中は俺に任された。鍛えたし訓練もしたが、守りきれるだろうか。黒は何も言わずそのままで居てくれている。
「寒いのか?」
「違う。この温もりを忘れたくなくて…」
「明日で終いみたいな言い方だな。負けるつもりか?それとも鷹翼に寝返るか」
「負けたくないし、寝返るなんて考えてもない。でも敗北がちらついて、怖くなる…」
怖気付いてる。黒みたいに余裕なんてない。俺を失ったら少しくらい悲しんでくれるだろうか。 いつか言われたことがあった。お前の後を追ってやると。あれが方便なのかはわからない。でも嬉しいかった。後追いしたくなるくらい愛していてくれたってことだから。
こんなこと考える俺はどこか歪んでるのかもしれない――
ともだちにシェアしよう!